生麦ベースへ戻った翌日、みのりが学校帰りに訪ねて来た。

「…百合香さん、何で帰っちゃったんですかね?」

 それは大介も同じ思いであったかも分からない。

 あの夜もう少し強く引き留めていたなら、もう少し強引でも泊めていたなら──悔やんでも悔やんでも悔やみ切れず、みずからを責めるしか大介には手がなかったのかも知れない。

 だが、それに気づいたのはみのりで、

「うちのパパ、バイク事故で亡くなってるんですけど、やっぱりママが同じように悩んで、だけど生まれたばかりの私がいて、ママが働いてたときの仲間とかがいて」

 みのりはみずからの境遇を語り始めた。

 みのりの父親は業界で少しは知られていた作家で、女子アナの妻を娶って生まれたのが兵藤みのりである。

「それでママはシングルマザーだったけど、私をここまで育ててくれて」

 みのりを大介に紹介したのも、みのりの父親の知り合いであった、鎌倉の雑貨のウェブショップを運営する女性社長であった。

「私もひとりっ子だったから、百合香さんにいろいろ良くしてもらって、お姉さんが出来たみたいで嬉しかったんです」

 その百合香は、もういない。

「だけど私たちは生きてる。生きてる限りは、私たちは前を向かなきゃなんないし、いつか亡くなる日のために、力いっぱい生きなきゃなんないんだって、私なんかは思うんですけどね…」

 思ったより、みのりはしっかりした気質であるらしかった。