饗庭大介。
最初、この名字を帰国子女の斎藤だりあは読むことが出来なかった。
「ほんとに日本人なの?」
そこまで疑ったらしいが、彦根の城からほど近い城下町に実家があるというから、紛れもなく日本人であった。
風貌も、どちらかといえば濃い。
整った目鼻立ちで、今どきの顎の細いイケメンというよりは、目が鋭くキリッとした、凛々しい顔立ちをしている。
だりあは学生時代だという詰襟姿の大介の写真を、横浜の鶴見にある大介の事務所で見たことがあるのだが、そのクッキリした相貌と詰襟があまりにも似合っていたので、
「まるで軍人みたい」
とだりあが言い、そのためしばらく、
「饗庭大佐」
というあだ名を大介は、こうむったことすらあった。