桜色に彩られた季節があっという間に過ぎ去ると、徐々に強い日差しが大地を照らすようになる。つい先日までは若葉だったものが、一丁前の顔をして天を仰ぐようになると、龍沖村には青々とした夏らしい雰囲気が漂う。

 そんな夏の日の朝、あるものを受け取った叶海は、軽やかに祖母宅を出発した。

「叶海! 龍神様によろしくな~」

 玄関まで見送りに出てくれた祖母が手を振っている。

「うん。朝早くからごめんね!」

 叶海は笑顔で手を振り返すと、社へと続く道を急いだ。

 朝の風が気持ちいい。茹だるような都会とは違って、ここの夏はとても爽やかで、いつもは耳障りなだけの蝉の声すら、心地よく思えるから不思議だ。
 すると、朝から畑仕事に精を出していた総白髪の老人が声をかけてきた。

「叶海ちゃん、おはよう。どうだ、仕事は順調だべか?」

 老人の名は沢村和則。龍沖村最年長で、村の顔役のようなことをしている。叶海のことも幼い頃からよく知っていて、当時から世話になっていた。

 和則は十年ぶりに戻ってきた叶海のことが心配らしく、あれこれと気にかけてくれている。雪嗣の嫁になるため、長年住んでいた都会から越してきた叶海としては、ありがたいことだ。叶海は顔を綻ばせると大きく頷いた。

「じっちゃん、おはよう! こないだはありがとう。おかげさまで仕事は順調だよ!」