鳥居坂管内で発生した振り込め詐欺の解決に向け、御堂誉が動き出したことを署内の誰も知らない。知っているのは犯罪抑止係の部下三人と彼女の上司・諸岡だけだ。

「階、遅いぞ」

朝のオフィス、誉の叱責にすみませんと頭を下げる。巧の出勤はギリギリである。同じ建物の中にオフィスがあるというのは、油断に繋がるのかもしれない。独身寮を出て部屋を借りようか……。
しかし、誉はただ叱責したいわけじゃなさそうだ。

「早速だが、受け子がリストの人物とほぼ合致した」

そう口を開く誉に、巧は自身のデスクに鞄を置くなり駆け寄った。捜査に関わると言いだしたのは昨日の話だ。仕事が速い。

「本当ですか?」
「階が仕掛けた近隣の監視カメラの映像に、同時刻、少年のひとりがスーツを着て出て行くのが映っていた。階が張り込み中も、同じ少年が何度かスーツで出入りしていただろう」
「ああ、この子。写真撮ってあります」

監視カメラの画像を確認しながら、巧は頷いた。

「残念ながら、被害者は高齢で目が悪い。暗い玄関で対面したため、受け子の顔と服装はよく覚えていないそうだ。ただ、声と体格からかなり若いと後々感じたとのこと」
「どっちみち、御堂さんが作ったリストが門外秘である以上、証拠にはならないですし、この監視カメラ映像も同様ですね」
「そうだ、証拠にはならない。しかし、絞り込めてきたとは思わないか」
「はい!」