暗い地下道をいっきに駆け抜けた。
革靴がぴしゃぴしゃと水を跳ね、スーツの足元を濡らすが気にする余裕はない。自分の息遣いが地下道に反響し、鼓動が全身に響く。階(きざはし)巧(たくみ)は眦を決し、手にしたリボルバーを固く握りしめた。

「階ィ! そっちだ! 回り込め!」

姿は見えないが、同僚の指示が聞こえた。巧は声の方に猛然と走った。側道から躍り込んでくる影。犯人だ。
手にはナイフが鈍く光るのが暗闇でも見えた。迷う余裕はない。全身の筋肉に心臓が血液を送り込む。戦闘準備だ。

「階! ガラ押さえろ!」

同僚の叫ぶ声。威嚇射撃か、いやそれよりも早いのは……。
巧は瞬時に犯人に駆け寄り、百七十七センチの体躯を丸め、腕を掴むと悪漢を担ぎ上げた。そのまま見事な一本背負いを決める。どうっと音を立て、犯人の身体が湿気ったコンクリに沈んだ。
追いついた仲間たちが駆け寄り、犯人の身体を抑え込む。

「よくやったな、階」

息を切らしがら、戦闘と勝利の余韻を感じている巧の前に、ひげ面の上司がやってくる。表情に見える自分への信頼と称賛に胸が熱くなった。

「いえ、そんな。自分は手柄を譲っていただいたようなものです!」
「いや、おまえのガッツの勝利だ」

上司は首を振り、巧の左肩にぽんと手を置いた。

「捜査一課のエースだよ、階巧は」

じいんと胸が熱くなる。巧は背筋を伸ばしてから、腰が直角になるまでぶんと頭を下げた。

「恐縮です! 捜査一課は自分の夢でありましたから!」