隼翔はそう言うと、ベッドに座っていたオレのことを押し倒した。

 隼翔に押し倒されたオレは、オレのことを覆いかぶさるように上にいる隼翔と目が合った。

 そのとき隼翔はオレの顔をジッと見つめていた。

 そしてオレの両腕は隼翔にしっかりと掴まれていた。

 隼翔に両腕をしっかりと掴まれていたオレは全く身動きがとれなかった。

 オレは自分の泣きそうになっている顔を隼翔に見られたくなかったけど、身動きがとれないから困っていた。

 でも、顔は自由がきいている。

 だからオレは思いっきり顔を隼翔からそらすように横に向けた。





「……葵……」


 隼翔……。

 いつも以上にやさしい声の隼翔。


「……ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど……」


 ……え……?


「まさか葵が泣いてしまうなんて……」


 バ……バレていた……?

 オレが泣きそうになっているのを……。


「な……泣いてなんかないもん」


 オレは、隼翔にそう言われて恥ずかしくなって意地を張った。


「……ちゃんと覚えてるから」


 え……?


「今日が何の日なのか……」


 隼翔……。


「今日は、オレと葵が恋人同士になって一年が経った大切な日」


 ちゃんと覚えていてくれたんだ……。


「隼翔……」


 オレは横を向いていた顔を隼翔の方に向けた。


「ちゃんと覚えていてくれてたんだ……」


「当たり前だろ。そんな大切な日、忘れるわけがないだろ」


「隼翔……」


「さっきは、ちょっとふざけ過ぎた。葵を悲しませるつもりはなかったんだ」


「隼翔……」


「本当にごめん、葵」


「もういいよ。隼翔がちゃんと覚えていてくれてすごく嬉しい」


「葵……」





 そしてオレと隼翔はキスをした。

 甘くて甘くてとろけるようなキスを……。

 ……って……あれ……?

 甘くてとろけるようなキスをしている隼翔の唇がオレの唇から離れた。

 オレは、どうして隼翔がキスをするのをやめてしまったのかと思った。

 だから……。


「……隼翔……まだ足りないよ……」


 オレは甘えた口調で言ってみた。


 すると……。


「……葵……」


 隼翔……?

 キスを終えた隼翔の顔つきがいつもと違うように感じた。

 なんか……。


「なぁに、隼翔」


 とりあえずそう訊いてみるオレ。


 すると……。


「……しよっか……」


 え……?





 今、確かに『しよっか』って……。


 それってもしかして……。


「……オレ、ずっとずっと我慢してたんだ」


 え……?

 我慢……?


「いつも葵と二人きりでいると、そういう気持ちになってくる」


 隼翔……?


「でも、そういう気持ちになってもいつも抑えてた」


 なんか……。


「……でも……そろそろいいんじゃない? オレたち恋人同士になって一年になったんだから」


 隼翔が……。


「……オレ、葵と二人きりでいると欲情してくる」


 いつもの隼翔と違う……。


 ……でも……。


「……葵……」


 それが嬉しかったりする。

 隼翔の気持ちが……。





 そして……。

 まずは甘いキスから始まる。

 隼翔のやさしさを感じる甘いキス。

 甘すぎて甘すぎてとろけてしまいそう……。

 胸の鼓動も激しくなって、体中が熱くなる。

 オレだけじゃない。

 隼翔もオレと同じ……。

 隼翔の体温がオレに伝わる。

 そして隼翔の胸の鼓動も……。

 オレの胸の鼓動も隼翔に伝わっているのかな……。

 なんかちょっぴり恥ずかしい。





「葵……かわいい……」


 隼翔はそう言った後、オレの首筋にキスをした。


 オレは思わず出そうになった声を抑える。


「なんでそんなに我慢するの? でも我慢してる葵もかわいい」


 オレが出そうになった声を抑えたのを隼翔は気付いていた。


「そんなにかわいいことすると、ますます止められなくなる」


 すべてが隼翔のツボに入ってるみたいだ。


 隼翔は首筋にキスをした後、その唇はオレの耳元にきた。


 そしてオレの耳元でフッとやさしく息を吹きかける。


 それがすごくくすぐったい。


 オレは、また出そうになった声を必死で抑えた。


「もう……なんで葵はそんなにもかわいいの」


 すると隼翔は、今度はオレの耳にキスをした。


「なんでまだ我慢してるの? ますますもえちゃう」


 隼翔はそう言うと、さらに激しいキスの嵐が……。

 オレの唇に……首筋に……そして耳元に……。





 隼翔……。

 わかって、隼翔……。

 オレは恥ずかしいんだ。

 すごく照れてしまうんだ。

 隼翔に触れられて抱きしめられて、キスされて……。

 隼翔にそうされるたびにオレの胸の鼓動が激しく高ぶるんだ。

 心臓がいくつあっても足りないくらいに……。

 ねぇ、隼翔。

 オレは隼翔に愛されてすごく幸せ。

 幸せ過ぎてこのまま溺れてしまいそう……。

 オレは……隼翔に溺れ過ぎて気を失いそう……。





「……と…………い…………」


 ……え……?


 オレ、本当に気を失いかけているのかな……?

 幻聴が聞こえるなんて……。





「……やと…………おい…………」


 …………。

 ……違う。

 本当に誰かの声が聞こえてる……?

 …………。

 ……‼

 そうだ、隼翔に知らせないと……。


「……隼翔」


 オレは隼翔に知らせようと思って、隼翔の背中をやさしくポンポンとした。


「……なに、葵……邪魔なんかさせないからな……」


 隼翔は、そう言いながらオレの首筋に何度もキスをしている。


「そんなつもりじゃないんだけど、今何か聞こえなかった?」


「……え……?」


「誰かの声が聞こえた気がする」


「そんなこと言ってオレの邪魔をしようとしてるのか」


「違う、そうじゃなくて……」





「隼翔―、葵―」


 今度は、はっきりと聞こえた。


 この声は……。


「隼翔―、葵―」


 楓姉ちゃん⁉


「え⁉ な、なんで姉ちゃんが家に⁉ だって姉ちゃん、友達と出かけてるんじゃ……」


 隼翔も楓姉ちゃんの声に気付いてパニックになっているのか、あたふたしている。


「お……落ち着いて、隼翔。とにかく普通にしてよう」


 隼翔に『普通にしてよう』と言ったものの、一体何が普通なのかオレはわからなくなっていた。


 とりあえずオレと隼翔は、くっつけている身体を離して、乱れている髪と服を整えた。


 あとは……。


 とにかく普通に……。


 そして……。