学校は嫌い。

「初めまして、井上ひまりです。3年間よろしくお願いします」

 私が頭を下げると教室で拍手が起きた。
 機械的に鳴らしている拍手であって私への歓迎の者でも、たたえるものではない。私なんかこんなもので十分、ただ事務的に物事が進むのであればそこに余計な意味なんていらない。平凡顔で身長も高くない眼鏡女子はモブに徹しているだけで十分だと思ってる。
 教壇から降りて自分の席に戻る。自己紹介は次の人に移っていった。

 私は今年から高校生になった。中学のころ仲のいい子なんていなかった、いじめられていたわけでも、不登校だったわけでもなかった、ただ他の人とつるむことを怠っただけで。そんな私にとって、高校は中学から学ぶ内容が難しかくなっただけで、学校は学校と大して違いも感じなかった。

 自分の自己紹介も終わったので、小説の続きを読もうかと机にかけたバックに手を入れた。手を突っ込んで手当たり次第に中身に触れていく、いくつか触ったところで目当てのものを見つけた。それをバックから取り出したところで、周りで今日一番の歓声が上がった。

 歓声におどろいて顔を上げる。自己紹介は私から何人か進んでいた。

 今、教壇に立っている子が歓声の中心になっているようだ。黒板には「佐倉マオ」と名前が書いてあった。大事なところは聞きそびれてしまったのでなぜこんなにも盛り上がっているかはわからないが、取り合えずあの子私と関わることは一生ないと思った。次の人に自己紹介が移るころには私の意識は本の中だった。

「えーと、井上さんだっけ?移動しないと送れちゃいますよ」

 急に名前を呼ばれて、とっさに本から顔を上げる。周りを見渡すと周りにいた人たちはいつの間にかいなくなっていた。

「えっと、ありがとう」

 私に声を変えけて来たのは、さっき私と関わることはないと思っていた佐倉マオだった。

「早く移動しよ」

「うん」
 
 読んでいた本は机の中にしまって急いで講堂に向かった。

 それから私と佐倉マオは学校の中で良く接するようになった。彼女はクラスのかで人気者で一緒にお昼を食べていると自然に人が増えていった。嫌いではないが慣れないことを体験することは少し疲れる。それを彼女は気遣ってくれている、私のことを気にするよりも他の子たちと仲良くした方がいいと思う。でも、そんなこと言えるような意思の強さを持っていなかった。いつも周りに流されている。だから、あれに選ばれてしまったのもそのせいだろう。

「これから、第一回図書委員会を始めます」

 委員会なんてめんどくさいと思っていたが、また周りに流されてしまった。入った委員会は図書員会で、推薦した子はいつも本読んでるからと適任と考えたのだろう。

 私のクラスのもう一人の図書委員会の男子は、他のところで友達と思わしき人と話をしている。そんな中で、委員会は続いていった。大半は配られたプリントに目を通しながら話を聞いているだけだったが、最後に当番活動を決めることになった。みんな自分の希望日時を言っていく。

「いつでも、入れます」

 私は部活にも入いる予定もなかったし、委員会と言えばお昼も抜け出せると考えた。毎日入れと言われても、当番活動の説明を聞いた時点では大して大変そうなことではなかったので、さほど気にならないだろう。

 委員に希望日時を聞いたところで、委員会は終わった。当番表は後日完成したものをを渡すということだった。

 
 その後、図書委員会は私にとってとても良い居場所になった。理由は二つ、図書館を利用するヒトなんて数えるくらいだっし、返却された本を棚に戻してしまえばあとはカウンターで本を読んでいられた。静かなところで本を読む時間を確保できたのは本当に幸運だった。なので、当番活動を変わってほしいと、頼まれれば喜んで引き受けた。

 当番活動は昼休みにもあるので、佐倉さんと昼食をとる機会も減った。でも、彼女は私を気にせず他の子たちと食べられるから、喜んでいることだろう。今日も当番活動を頼まれたと言って、図書館へ向かった。

 どの学年にも私のようなに当番活動を変わってもらいやすい人というのが、いるらしい。図書委員会の委員長、有栖川 真司もその一人だった。

「こんにちは、先輩」

「井上さん、こんにちは」

 先輩は先に来ていたようで、本を棚に戻していた。カートに乗せられた本たちを抱えると私も本を棚に戻し始めた。カートの積まれている本はいつもよりも多かったが、手慣れた二人ではさほど時間もかからず、本を棚に戻し終えた。
 
 本も一通り戻し終わったところで、カウンターの中に置かれている机にお弁当に広げて、昼食を取り始めた。

「今日も井上さんは誰かの代わり?」

「はい、隣のクラスの人です」

「いつも代わりに来てもらえて、嬉しいけど。たまには断っても大丈夫なんだよ?」

「それは、大丈夫です。ここ気に入っているので。あとそれ、そっくりそのまま先輩に返しますよ」

「ああ、そうだね。でも僕は委員長だから」

 先輩はいつも代わっているのは委員長だからって答える。私はそれよりも先輩が優しすぎて断らないって思われているのが原因だと思う。
 お弁当を食べていると、先輩は私に一冊の本を見せてた。

「そうだ、井上さんに進めてもらったこの本。とても面白かったよ、特に主人公のせりふ回しがとても光ってたと思う」

「喜んでもらえて嬉しいです。勉強で忙しいのに、もう読んでくれたんですね」

「いつも読まない種類の本だったから、ページをめくるのが止まらなかった」

「そうですよね、分かります。次は先輩の番ですよ」

 一緒に当番活動を行っているうちに、本の話題でとても話が合った。ここまで本を読んでいる人を私以外で見たのは初めてだったので、私からも声をかけるようになっていた。
 そのうちに、おすすめの本を交互に勧め合うことになった。お互いに本はたくさん読んでいても、まだ手を付けたことのジャンルが存在した。そこをちょうどお互いに補うことができた。ルールが存在しているわけではないが、相手が読んだことなさそうで、なおかつ、図書館にある本を選ぶようにしていた。

 先輩は昼食を食べ終わると立ち上がり本棚に向かった。本棚から一つ一つ本を手に取っては吟味している。これが私のためにしてくれていると思うと、甘い気持ちに包まれて耳がキューっと熱くなる。

「あった、井上さんこの本なら、楽しんでくれるはず」

 私の為に選んだ本をもって先輩がカウンターに戻ってくる。

 ああ、やっぱり。この気持ちは嘘じゃない

 こんな、私も女の子だったようで、先輩に恋をしてしまった。先輩の優しいところに、本が好きなところに、それ以外のところに、私はあこがれた。

 先輩に会える、それが私のもう一つの理由、図書委員会が好きな理由。