――しゃん、しゃん。
ふいに鈴の音が響いた。
赤ずきんの鈴かと思ったが、遊羽は膝の上の赤ずきんを見て、脱いだままだったとすぐに思い直した。音は神社の入り口の方から響いてくる。
視線を向けると、大名行列が社殿に向かっていた。先頭に烏帽子に袴姿の男、後ろに屈強な男たちが続いている。男たちは木の台座を抱えており、それは三方の形をしている。
大名行列が姿を現すにつれ、鈴の音の発生源は、二人の巫女だとわかった。たくさんの鈴がついた棒を両手に一本ずつ持ち、交互に振っている。鈴の鳴るタイミングは意図的にずらしているようで、鈴の音を途切れないようにしてるようだ。
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん。
近づくと、先頭の男の着物には刺繍が施されていて、豪華なものだと分かった。おそらく宮司だろう。白髪交じりの頭だが、背筋をピンと伸ばしていて年齢を感じさせない。視線をまっすぐ前に固定したままゆっくりとした歩調で社殿に歩を進めている。
社殿の前にたどり着くと、宮司に合わせて大名行列の歩みもピタリと止まった。宮司が振り返ると、行列は参道を空けて左右に開けた。
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん。
鈴の音は途切れることなく続いてる。社殿の軋む音は聞こえなくなっていた。遊羽は社殿に耳をかたむけてみたが、鈴の音に阻まれて、何も聞き取れなかった。
宮司は緩慢な動作で礼をした。そして、かつぜつの良すぎる発音で何かを唱えている。よく通る声だったが、遊羽にはまったく意味が理解できず、ムニャムニャと言ってるようにしか聞こえなかった。
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん。
今度は屈強な男たちが社殿に歩み寄った。一人が錠前を手に開錠にかかり、二人は観音開きの扉の左右に立った。重たい金属音と共に錠が外されると、男たちは目配せをし、体重をかけて扉を引いた。
ぎぎぃ……、ぎぎぃ……。
蔵のように分厚い扉が開かれていく。遊羽は内側に注視した。初めに見えたのは札だった。扉の内側に幾重にも貼られ、茶色に褪せた札から新しい白い札まである。年月を経て何層にも貼り重ねられているのだろう。
遊羽の位置からは社殿の中は完全に見渡せなかった。それでも、社殿の内壁が一部分が見える。扉が開くにつれ中を覗き込もうと、思わず腰を浮かしてしまった。が、手元の赤ずきんを握りしめ、立ち上がるのをなんとかこらえた。
扉が完全に開け放たれると、二人の男は社殿から離れた。中から人が出てくる気配はない。