「海吏」
はじめてきみが僕の名前を呼んだとき、咄嗟にくちびるを噛まなければ、きっと泣いてしまっていた。
声という目には見えないものを、手のひらで掬おうとした。
両手のひらに積もる、きみに届かなかった想いが今もまだ指先に染み付いて消えない。まっさらなものをなぞるたびに、きみと見た青が滲む。
包みたくなるような愛おしさと、触れることを躊躇うような愛おしさが同時に、同じ重みで両手のひらに乗っていた。
本当に大切なことのなかの、きみが関わることだけは、いつも間違えずにいたかった。他の誰かを傷つけて、蔑ろにしたとしても、その報復を一身に受けたとしても、きみと同じ青を見たかった。
きみと同じ三秒を数えて、瞬きの間隔を揃えて得た青は。
目映いほどに、輝いて。
僕の心を連れ去る鮮烈な色をしていた。
【三秒前の青。】