『敦へ。

 急にこんな手紙を渡してごめん。でもそろそろ本気で時間がない事を感じているから、どうしても残しておくべきだと思ったんだ。この手紙、絶対誰にも見せないでくれ。読んだ後燃やしてくれることを希望しとく。

『幸呼びの指輪』はやっぱりどうも本物みたいだな。これが敦に渡らなくてほっとしてるよ。ジャンケンで俺が勝って良かった。

 調べたことのほかに判ったことがいくつかある。ずっと内緒にしてたけど、まぁたぶんお前なら気づいてるんだろうな。

 この指輪は『身につけたものの周囲』に幸せを呼ぶのは本当のようだ。実際、妹も両親も最近いろいろ調子がいいらしい。敦はどんな感じ? 調子がいいなら俺的には嬉しいんだけど。

 ただし、副作用有り。『身につけたもの本人』は逆に幸せを奪われるみたいだ。実際俺が最近激烈についてない状態なのは敦も知っての通りだし。ずっとごまかしててごめん。まぁ、実際それが本当に指輪のせいなのかどうかは実証できないんだけどさ。でもたぶん、これが事実。

 最近、ついてないのも相当なレベルに達しかけている。この間俺腕折っただろ? それでやばいかもなって思ったら、今日は危うく頭上から降ってきた植木鉢に潰されかけるし。後一歩ずれてたら死んでたね、あれは。それで、本気でやばいなと思ったんだ。たぶん、長くつけていることは出来ないと思う。

 俺はたぶん、近いうちに死ぬよ。

 もしそうなったとき、この指輪を捨てて欲しいんだ。

 一度つけたら、外したところで効果は変わらないらしい。たぶん『所有者』とみなされるんだろうな、指輪に。所有者でいる以上効力に変化はないらしい。ただ、たぶん……ここから先は推測だけど、俺が死んだらさすがに所有者という状態はなくなるはずだ。そうなったら、指輪を捨てて欲しい。誰にも見つからないように。もう二度と見つからないように。土に埋めてでもいいしコンクリで固めて海に沈めてもいいし方法は任せるけどさ。

 指輪が次の所有者を見つけないように。頼む。

 後、もうひとつ。

 もし、俺が死んだ後妹とか親とかが疑問を敦にぶつけたとしても、絶対言わないで欲しい。

 たぶんこれは、面白半分で指輪をつけた俺たちの罪みたいなもんだからさ。
 

 俺が死んだとしても、だから、怒らないでくれな。

 西岡正樹』