「当たり前だ。お前の声はダダ漏れているのだ。この俺にはな」

 僕はそんな少年の言葉を無視して、すぐ後ろに立つみーこさんに視線を投げた。みーこさんは首を傾げるだけで、僕とこの少年とのやり取りを黙って見ているだけだ。その表情からは、何を言い合っているのかわからないといった様子だ。
 ……いやいや、待て待て。みーこさんはこの少年のごっこ遊びに付き合っているのだ。だから僕が思わず漏れ出た声すらも聞こえないフリをしているのだろう。
 もしくは僕が内情をこの顔に貼り付けていいたのかもしれない。そうだとすればみーこさんは僕の背後にいたのだ。見えるわけがないじゃないか。

「……お前、本当に疑り深いやつだな。そんな奴がよく神社になんて来たもんだ」
「ど、どういう意味だ」
「言葉通りの意味だろ。お前ももう気づいてるんだろ。俺がお前の心の声を聞いてるんだってことを」

 有り得るのか、そんなこと……?

「有り得るだろ。現にこうして会話してるんだから」
「お前本当に……」

 僕は再びみーこさんに顔を向ける。するとみーこさんは困ったように微笑んでこう言った。

「彼は神使ですから」

 この際神使なのは受け入れたとして、神使なら人の心が読めるものなのか……? なんていう、今度は別の疑問が浮上し始める。

「聞こえてもおかしくないだろう。神様に仕えているのだからな」
「お前、本当に……?」

 この少年は本当に僕の言葉を聞き取っている。僕の言葉や声を介さずに。なんてことだ。声に出していない言葉を勝手に聞き取られてしまうなんて……神の世ではコンプライアンスはどうなっているんだ。僕のプライバシーは? 僕のプライベートなテリトリーとは? 一体全体どうしたら……。

「別に俺、お前の考えていることを全て聞くつもりもないぞ」

 地面に唾でも吐き出しそうな勢いで、僕を睨みつけるような眼差しを向けながら、少年は僕から距離をとった。

「そうなのか。ってか、また読んでるじゃないか!」
「俺だって別にお前の考えていることなんて興味はないし、なんなら知りたくもないけどな」
「ぐぬぬ……それはそれで失礼だな」

 言い方の問題だ。こいつはどこまでも失礼な言い方をする小憎たらしい小学生だ。やはり僕より長く生きているこの神社の神使だなんて信じろと言う方がおかしいんじゃないか。
 再びそんな考えが巡ってきたところで、少年はため息をこぼしながら吐き捨てるようにこう言った。

「お前、相当面倒臭い奴だな」