「本気にした?」だなんて。
してないよ、 例えそう答えたとしても君は 嘘だ、と笑って弥次るくせに。

「本気にした」
言うつもりのなかった“好き”のわずか2文字の言葉が、違う形に変化して口から零れた。

「嫌だなあ。冗談だよ」
僕の回答に何気ない仕草で目伏せをした彼女。

その口元は不格好な笑みを湛えていたけれど、一向に僕との視線がかち合わないのは――

「はは、嫌だな」
照れているのだと思い込めれば、どれほど楽に君と恋愛をすることが出来ただろうか。

湧き上がってきた恋情以外の全てを押し殺して、なるべく優しくその頬に触れる。

「本気にした?」
君の言葉をなぞって乱暴に誤魔化してみせた。