「言葉にしてくれなきゃ分かんないよ」ってそうやって僕に言ってきたのは君のほうなのに。
彼奴と連絡を取るのを辞めて欲しいだとか、彼とは遊ばないで欲しいだとか。
「嫉妬?カワイイ」だなんて揶揄われて終わってしまうもの以外の言葉だって届いていない気がしている。
“好き”さえも、多分。
吐き出された紫煙が僕と彼女との間を隔てた。
その臭いが鼻腔を刺すよりも先に眼を刺激したから、何度か瞬きを繰り返して白濁した空を睫毛で仰いでみてみたが。
結果。その行為は、目尻に溜まってしまった涙が頬へと溢れ落ちるきっかけ程度にしかならなかった。
それだけの経緯だ。嗚咽が洩れていないのが何よりの証拠。
…少しだけ、噛み締めた唇が痛んでいたけれど 気に留めることは無かった。心の方がずっと、傷ついていたから。
1年前よりも君のキスの拒み方が乱暴になったてしまったことくらいで
「…泣いてるの?」君の声色に少しの恋情さえも感じなくなったことくらいで
「煙が目に染みただけだよ」涙を流してしまうような情けない真似 僕がするワケが無いだろう?君の嫌いなタイプの男じゃあないんだから。
飲みのメンバーに女の子がいないことを明言しておいてくれるし、「終電に乗れたら会いに来る理由がなくなるだろ?」そう言って深夜、私のアパートへ帰ってきてくれる。
その度に自分は愛されていると思うから、部屋を出て行く背中が振り返ってくれないことが寂しいだなんて、欲張りよね。
「恋愛感情だって勘違いしてない?」
目を伏せて呟いた君に、この想いが恋情でないというのならば、そんなの私、一生恋愛なんてできないものだと思ったけれど。
声に変わりそうだった拙い言葉はきっと「俺は幸せに出来ないから」なんて、決まりの悪い別れ文句に呑み込まれてしまう気がした。
「置いてよ、それ」
私の言葉に気怠そうに溜息を吐いた彼。
キスをする時くらい良いでしょう。とその手に握られた缶を取り上げようとしたけれど、白い指たちに込められた力が緩められることはなかった。
「貸して」
「お前ドジだからダメ」
結局私に触れようとしていた唇はプルタブへ。
影が離れていく。