「そうなんだけどね……」

 消え入りそうな明日香の隣で、もっと体を小さくしている青山さんをチラッと見やった私は、
「あれ?」
 思わず声を出していた。

 いつもの丸メガネはそのままだけど、トレードマークであるひとつに結わえられた髪がない。少し明るい色で肩のあたりで揃えてある。

「髪……」

 思わずつぶやく私に、照れたように青山さんはさらにうつむく。

「少しだけ……切ったの」

 へぇ、とうなずきながら瞬時に思い当たる、手が止まる、時間が止まる。
 前に私、なにか言わなかったっけ……。
 ああ、そうだ。『ダサい髪型』だと言った記憶が再生される。

 ひょっとして私のせいで青山さんは……。

 視線を明日香に戻すと大きくうなずいている。急に襲われる罪悪感に私は視線を冷めていくポテトに落とした。

「この間はごめんなさい」

 青山さんの声に思わず首を振っていた。
 私のせいだ。私があんなこと言ったから……。
 リョウに髪のことを言われたとき、あんなに傷ついたのに同じことをしてしまった。

 重い空気を払拭(ふっしょく)するように、
「でね、亜弥に提案なんだけどさ」
 と明るい声で明日香は手をぱちんと叩いた。

「あたしたちも亜弥の街歩きに参加したいの」
「お願い、します」

 小さな声で頭を下げた青山さん。窮屈そうにひとつに結わえられていた髪が、自由を謳歌(おうか)するように肩のあたりで踊っている。
 きっとふたりで話し合ってきたのだろうな。

「それって……本気で言ってるの?」 

 ぎこちなく言葉を落とす。視線も落ちる。

「私たち、亜弥と一緒に夏休みの思い出を作りたいな、って思ったんだ」

 明日香の声が耳に届いても素直にうなずけない。
 黙りこむ私に青山さんが下唇をそっと噛んだ。

「急に言われても困るよね。ごめんなさい……」

 頭を下げると青山さんは、もうポテトとにらめっこするくらいうつむいてしまう。
 その姿にあの夜の自分を重ねる。

 リョウの言葉で傷ついた私は、あの日からずっとお腹にモンスターを飼っていたようなもの。モヤモヤとイライラの炎を吐く怪獣は、なにかにつけてあの日の彼を思い出し、悲しい悲鳴をあげていた。