「でもっ、私ばっかりズルいっ! 私ばっかり!」

「雨音ちゃん……」

胸が苦しい。
息が上手くできなくて、辛い。
錯乱したまま、私は叫ぶように言葉を紡いだ。

誰か私をどうにかして。
これ以上おかしくなってしまわないように。

「……ズルくなんかないわ。雨音ちゃんだって辛いんだから」

どれほどの時間をそうして過ごしていたのだろう。
ようやく呼吸が落ち着いたころ、ふいに耳元で響いた理人さんの声に、私はゆっくりと顔を上げた。

「それでも悔やむのは無理ないわよね。残された方の気持ちなら、アタシも少しは分かるつもりよ」

そう言えば理人さんも、幼いころにお父さんを亡くしているのだ。
きっと今の私のように、寂しくて辛い思いもしたのだろう。

「ねぇ、雨音ちゃん。雨音ちゃんは大切な家族に、苦しい思いをしてほしいと思う?」

「ううん……」

「だったら天国に行った二人だって、きっと同じはずだわ。あなたに笑っていてほしいと思ってる」

そうだろうか。
私だけが助かって生き続けるなんて、それは本当に許されることなのだろうか。
分からない。
分からない、分からない、分からない……だけど。

「色んなことがあって大変だったでしょう? でも、もう一人で背負い込まなくていいの。今日からはアタシが、雨音ちゃんのお母さんの代わりに、あなたを守るわ」

今は、今だけは、目の前の優しさに縋りたかった。
私が私でいられるように。

それから私は、堰を切ったかのように大声で泣いた。
嗚咽が止まらず、手のひらは涙に濡れていく。
そんな私の背を、理人さんはずっと支えてくれた。

ごめんね、ごめんねと、心の中で何度も二人に謝る。
私、生きていたいの。
だから――ごめん。


家族を失ってから初めて涙を流したその日。
私は全てを受け止めて生きると決めた。

視界の隅で、サルビアが風に揺れている。
並んで咲くその姿は、まるで仲のいい家族のようだと思った。