理人さんと恋仲になったことは、昨日の夜、きちんと暖花さんにも伝えていた。
驚かれたり、反対されるかもしれないと思っていたのだが、しかし彼女はそのどちらもすることはなかった。
代わりに、「理人と雨音の関係性が変わっても、二人が私の弟と妹ということに変わりはないもの」と言ってくれたのだった。
その落ち着きぶりは、告白した私たちの方が拍子抜けするほどで、彼女はこうなることを予期していたのではないかとさえ思った。
「理花子さんも反対しないだろうしな。これで一件落着ってわけか」
「そうだといいんだけど」
「でも、これで余計にトロイメライから離れがたくなったんじゃないか?」
颯司くんが意地悪に笑う。
せっかく想いが通じたのに、私は春から理人さんと離ればなれになってしまうのだ。
それなのに寂しくはないのかと、彼なりの言葉で気遣ってくれているのだろう。
「フラワーデザイナーを目指すってことは、理人さんともライバルになるってことだもん。寂しいとか離れたくないなんて言っていられない」
私がそう言うと、颯司くんは面を食らったような顔をしてから、安心したように微笑んだ。
「そっか。それならもう、雨音は大丈夫だな」
久しぶりに見た彼のそんな表情に、私も勇気づけられる。
うん、大丈夫。
思い煩うことなんて、もう何もない。
「ありがとう、颯司くん」
「別に。俺は何もしてないし」
照れ臭そうにそっぽを向いた彼に、くすくすと笑い声をもらす。
なんだかとても清々しい気分だった。
それからまた、私の日常は勉強漬けの日々へと戻っていった。
学校から帰ってきてはひたすら机に向かっているおかげか、成績は順調に上がっているが、やはり苦手な英語が今ひとつ伸び悩んでいる。
けれど私には、心強い救世主がいるのだ。
「イディオムはかなり頭に入ってきたわね。それと、雨音はやっぱり比較の構文が苦手だから、もう少しさらっておくべきよ」
模試の結果を見ながら的確なアドバイスをくれる救世主――もとい理人さんは、日本語とドイツ語と英語の三カ国語を操れる、いわゆるトリリンガルだ。
最近はトロイメライの営業後、彼に分からないところを聞くことが私の日課になっている。
今日もリビングのソファーに並んで座りながら、弱点を見極めてもらっていた。
「長文問題の正答率も上がってきてる。いい調子じゃないの」
「教えてくれる先生の腕がいいからね」
「あら。嬉しいこと言ってくれるわ」
そう言うと、理人さんは腕を回し、左隣に座っていた私の頭を抱き寄せるようにして撫でた。
そのせいで自然と彼との距離が近くなる。
見上げれば、あの夏の日と同じように彼の瞳に映った自分の恋する姿が見えて、私は恥ずかしさに押し黙ってしまった。
鼓動が早くなっていくのが分かる。
顔に熱が昇って、ひどく暑い。
「もう。どこでそんな顔を覚えてきたのよ」
すると理人さんは困ったような、けれどもどこか色のある声で囁いた。
その声に、胸が苦しいくらい締めつけられる。
驚かれたり、反対されるかもしれないと思っていたのだが、しかし彼女はそのどちらもすることはなかった。
代わりに、「理人と雨音の関係性が変わっても、二人が私の弟と妹ということに変わりはないもの」と言ってくれたのだった。
その落ち着きぶりは、告白した私たちの方が拍子抜けするほどで、彼女はこうなることを予期していたのではないかとさえ思った。
「理花子さんも反対しないだろうしな。これで一件落着ってわけか」
「そうだといいんだけど」
「でも、これで余計にトロイメライから離れがたくなったんじゃないか?」
颯司くんが意地悪に笑う。
せっかく想いが通じたのに、私は春から理人さんと離ればなれになってしまうのだ。
それなのに寂しくはないのかと、彼なりの言葉で気遣ってくれているのだろう。
「フラワーデザイナーを目指すってことは、理人さんともライバルになるってことだもん。寂しいとか離れたくないなんて言っていられない」
私がそう言うと、颯司くんは面を食らったような顔をしてから、安心したように微笑んだ。
「そっか。それならもう、雨音は大丈夫だな」
久しぶりに見た彼のそんな表情に、私も勇気づけられる。
うん、大丈夫。
思い煩うことなんて、もう何もない。
「ありがとう、颯司くん」
「別に。俺は何もしてないし」
照れ臭そうにそっぽを向いた彼に、くすくすと笑い声をもらす。
なんだかとても清々しい気分だった。
それからまた、私の日常は勉強漬けの日々へと戻っていった。
学校から帰ってきてはひたすら机に向かっているおかげか、成績は順調に上がっているが、やはり苦手な英語が今ひとつ伸び悩んでいる。
けれど私には、心強い救世主がいるのだ。
「イディオムはかなり頭に入ってきたわね。それと、雨音はやっぱり比較の構文が苦手だから、もう少しさらっておくべきよ」
模試の結果を見ながら的確なアドバイスをくれる救世主――もとい理人さんは、日本語とドイツ語と英語の三カ国語を操れる、いわゆるトリリンガルだ。
最近はトロイメライの営業後、彼に分からないところを聞くことが私の日課になっている。
今日もリビングのソファーに並んで座りながら、弱点を見極めてもらっていた。
「長文問題の正答率も上がってきてる。いい調子じゃないの」
「教えてくれる先生の腕がいいからね」
「あら。嬉しいこと言ってくれるわ」
そう言うと、理人さんは腕を回し、左隣に座っていた私の頭を抱き寄せるようにして撫でた。
そのせいで自然と彼との距離が近くなる。
見上げれば、あの夏の日と同じように彼の瞳に映った自分の恋する姿が見えて、私は恥ずかしさに押し黙ってしまった。
鼓動が早くなっていくのが分かる。
顔に熱が昇って、ひどく暑い。
「もう。どこでそんな顔を覚えてきたのよ」
すると理人さんは困ったような、けれどもどこか色のある声で囁いた。
その声に、胸が苦しいくらい締めつけられる。