「それは、家族だからか」

「そうだよ」

「……けど、血が繋がってるわけじゃないんだし」

颯司くんの言うとおり、私と理人さんに血の繋がりはない。
だからこの恋は、禁忌とは少し違う。
生物学の理論でなら、私が彼に恋をしたり、仮に結ばれることができたとしても、なんの不都合もないのだろう。
けれど、それはあくまで理論上のことだ。

「それでもやっぱり、私たちは家族なの」

たとえ血が繋がっていなくったって、私と理人さんは何年もかけて家族としての関係と絆を深めてきた。
それは今さら、理論なんてものではどうにもできない強固なものなのだ。
彼は私を本当の妹のように思ってくれている。
だからこそ、私はこの想いを伝えるわけにはいかなかった。
だって理人さんは、家族である暖花さんに恋をしていることに、ずっと心を痛めてきたのだ。
そんな彼にまた、家族である私を好きになってほしいなんて酷なこと、口が裂けても言えない。

けれど私は感情が表に出やすいから、このまま言わずとも気づかれてしまう恐れがある。
そうなってしまう前に、早くこの想いを葬ってしまわなければならない。
そしていつか、理人さんがもう一度誰かに恋をしたとき、笑顔でおめでとうと言ってあげるのだ。
彼が暖花さんにそうしたように、私も。

「でも、このままじゃ気が滅入るだけだぞ」

私が放ったシャーペンを拾ってくれた颯司くんは、難しい顔をしたままそう言った。
たしかに想いなんて、なくそうと思ってなくせるものではない。
だからこそ、困っているのだが。

「せめて好きな花のことでも考えてろよ。気分転換に外に出てるんだし」

「それもそうだね」

「っていうか、ここ、こんな木あったっけ?」

気晴らしにと颯司くんが見つけてくれたのは、庭の片隅に佇む、桃色の花をつけた木だった。

「夾竹桃? その木なら、私がこの家に来る前から鉢に植えてあるよ」

「そうだっけか?」

梅雨から夏にかけて可愛らしい花を咲かせる夾竹桃は、私が真田家に来る少し前に購入したものだったらしい。
私が成長するにつれ、同じように大きくなったこの夾竹桃は、年々その鉢を大きくし、今でもすくすくと育っている。
そんな夾竹桃だが、可憐な姿とは裏腹な面を持っていた。

「この花は綺麗なんだけど、強い毒があるんだ。昔、枝をお箸とか串の代わりにして亡くなった人がいたんだって」

「まじで?」

「うん。だから花言葉もその毒性にちなんで、【危険な愛】っていうのがあるの」

そう言って、私は少し苦笑した。

危険な愛。
それはまさしく、私が抱えている想いと同じだと思ったのだ。

「触ったら危ないか?」

「少しくらいなら平気だよ」

すると、夾竹桃に興味を示したらしい颯司くんは、おそるおそる鉢に近づいていった。
軽く触れるくらいなら、夾竹桃はそれほど怖くはない。
毒という言葉にたじろいでいる颯司くんのため、手本に触ってあげようと思い、彼の元へ駆け寄る。

「わっ」