帰り際、理人さんは近くに大きなひまわり畑があると言って、途中で寄り道をしてくれた。
広大な丘の上につくられていたその場所は、数えきれないほどのひまわりが植えられていて、元気な黄色い花が辺り一面に咲いている。
「見て、あのひまわり。とっても大きいわ」
畑の中の小道を、私は理人さんの背を追うように歩いていた。
たくさんのひまわりを眺めて目を輝かせた理人さんは、まるで夏休みを迎えたばかりの無邪気な少年のようだ。
大人な彼の、そんな可愛らしいところに思わず微笑み、目を細める。
そう言えば“リヒト”という名前は、ドイツ語で光を意味するらしい。
そのせいか、彼は昔から太陽を浴びる姿がよく似合った。
理人さんが太陽ならば、さしずめ私は太陽に向かって育つひまわりだろう。
ひまわりの花言葉は、【私はあなただけを見つめる】。
私もひまわりのように、太陽のような理人さんをずっと見つめつづけてきた。
「おや、デートかい?」
そんなことを考えながら歩いていると、道の途中で見知らぬ老夫婦にすれ違った。
二人は私たちの姿を見て、なんだか微笑ましそうに笑みを浮かべている。
「彼らを見ていると昔を思い出すなぁ」
「そうね。私たちもよくここへデートをしに来たものね」
二人が穏やかな会話をしながら遠ざかっていくのに対し、私は強い衝撃を受けながら立ち尽くしてしまっていた。
私と理人さんは容姿が似ても似つかないから、兄妹に間違えられたことはない。
けれどまさかカップルだと思われる日が来るなんて、まるで予想もしていなかったのだ。
「雨音?」
前を歩いていた理人さんがくるりと振り返り、立ち止まっていた私を呼ぶ。
いつもの軽やかな彼の笑顔が、なぜだか今日はずっと眩しく見えた。
「やけに静かだけど、どうかしたの?」
「えっ……?」
すると理人さんは、私の目を覗きこむように顔を近づけた。
吸いこまれそうなほど綺麗な、色の薄い彼の光彩。
その真ん中の、黒い瞳の中に映る自分の姿を見つけて、私は言葉を失った。
「やだ、顔が真っ赤よ? ちょっと暑すぎたかしら」
「だっ、大丈夫!」
心配そうに首を傾げた理人さんの胸に手を突っぱね、私は慌てて彼と距離をとった。
顔の赤さを指摘されれば、ますます体の熱が上がっていくのが分かる。
けれどこの熱は、気温が高すぎるせいではなかった。
私はただ驚いたのだ。
理人さんの瞳に映った私は、よく知った目をしていたから。
それはかつて見た暖花さんや理人さん、それからトロイメライに来たお客様と同じ。
あの、愛しい人を想う目。
「雨音……?」
私を気にかける優しい声に、鼓動が高鳴る。
けれどもその声に応えられる余裕もなく、私はその場に立ちつくすしかなかった。
ああ、どうしよう、私。
理人さんが、好きなんだ。
広大な丘の上につくられていたその場所は、数えきれないほどのひまわりが植えられていて、元気な黄色い花が辺り一面に咲いている。
「見て、あのひまわり。とっても大きいわ」
畑の中の小道を、私は理人さんの背を追うように歩いていた。
たくさんのひまわりを眺めて目を輝かせた理人さんは、まるで夏休みを迎えたばかりの無邪気な少年のようだ。
大人な彼の、そんな可愛らしいところに思わず微笑み、目を細める。
そう言えば“リヒト”という名前は、ドイツ語で光を意味するらしい。
そのせいか、彼は昔から太陽を浴びる姿がよく似合った。
理人さんが太陽ならば、さしずめ私は太陽に向かって育つひまわりだろう。
ひまわりの花言葉は、【私はあなただけを見つめる】。
私もひまわりのように、太陽のような理人さんをずっと見つめつづけてきた。
「おや、デートかい?」
そんなことを考えながら歩いていると、道の途中で見知らぬ老夫婦にすれ違った。
二人は私たちの姿を見て、なんだか微笑ましそうに笑みを浮かべている。
「彼らを見ていると昔を思い出すなぁ」
「そうね。私たちもよくここへデートをしに来たものね」
二人が穏やかな会話をしながら遠ざかっていくのに対し、私は強い衝撃を受けながら立ち尽くしてしまっていた。
私と理人さんは容姿が似ても似つかないから、兄妹に間違えられたことはない。
けれどまさかカップルだと思われる日が来るなんて、まるで予想もしていなかったのだ。
「雨音?」
前を歩いていた理人さんがくるりと振り返り、立ち止まっていた私を呼ぶ。
いつもの軽やかな彼の笑顔が、なぜだか今日はずっと眩しく見えた。
「やけに静かだけど、どうかしたの?」
「えっ……?」
すると理人さんは、私の目を覗きこむように顔を近づけた。
吸いこまれそうなほど綺麗な、色の薄い彼の光彩。
その真ん中の、黒い瞳の中に映る自分の姿を見つけて、私は言葉を失った。
「やだ、顔が真っ赤よ? ちょっと暑すぎたかしら」
「だっ、大丈夫!」
心配そうに首を傾げた理人さんの胸に手を突っぱね、私は慌てて彼と距離をとった。
顔の赤さを指摘されれば、ますます体の熱が上がっていくのが分かる。
けれどこの熱は、気温が高すぎるせいではなかった。
私はただ驚いたのだ。
理人さんの瞳に映った私は、よく知った目をしていたから。
それはかつて見た暖花さんや理人さん、それからトロイメライに来たお客様と同じ。
あの、愛しい人を想う目。
「雨音……?」
私を気にかける優しい声に、鼓動が高鳴る。
けれどもその声に応えられる余裕もなく、私はその場に立ちつくすしかなかった。
ああ、どうしよう、私。
理人さんが、好きなんだ。