「雨音は優しい女の子に育ちました。だから心配しなくて大丈夫です。また、これまでと同じように見守っていてあげてくださいね」

私の声に被せるように、理人さんは強く、けれども穏やかにそう言った。
思考が追いつかない私は、そんな彼の言葉の意味を数秒遅れて理解する。

「見守って、くれていたの……?」

「当たり前じゃない。雨音がこれまで大きな病気もせずに元気でいられたのが、何よりの証拠でしょう?」

見えない二人に情けない涙声で問えば、代わりに理人さんが答えてくれた。
私のつむじに、彼の額がこつりと当たる感触がする。

「雨音が生きることに罪悪感を覚えたように、二人だって、雨音一人を置いていったことを辛く思ったはずよ。だからあなたが泣いていたら、ますます二人を悲しませてしまうわ」

すぐそばから紡がれる言葉に、再び涙がこぼれていく。
けれどもそんな息苦しいほどの感情を抑えながら、私は心の中で理人さんの言葉を反芻した。

これまで幾度となく私を救ってくれた、彼の言葉。
私はそんな彼の言葉に、たくさん勇気づけられてきた。

「ね。笑って、雨音」

見上げると、理人さんは私の肩を抱いていた手で、今度は頭をなでてくれた。
その微笑みに、頷きで応える。
それから私は、もう一度仏壇を見据えた。

「……私ね、幸せだよ。優しい人たちと、大好きなものに囲まれて、すごく幸せ。そう思ってもいいんだって、理人さんに教えてもらったんだ」

涙のせいで掠れた声は、酷いものだ。
二人が心配しないようにとつくった笑顔も、とても不器用なものだっただろう。
それでも私は、すべての思いを大切に大切に言葉にした。

「だから――私は、大丈夫」

また、ふいにあの日の炎を思い出すことがあるかもしれない。
その度に不安や恐怖に襲われることもあるだろう。
けれど二人が見守ってくれているのだと思えば、たとえ一人でだって乗り越えられる。

そのことを信じて、私は笑顔でいよう。
天国の二人が私を思って、悲しむことがないように。

「じゃあ、また来るね」

最後にそう伝えて、私と理人さんは納骨堂を出た。
お堂の外の空は澄み渡るような青い色をしていて、今日はこんなにも晴れていたのかと、私はこのとき初めて知った。

「……いつかこの場所を教えないといけないって思ってたわ。でも、アタシは嫌だったのよ」

車に乗り込むと、理人さんはすぐには発車せず、出てきたばかりのお堂に視線を向けたままそう言った。
思いもよらなかったその言葉にどきりとしながら、彼の長いまつげが密かに下りるのを食い入るように見つめる。

「本当はね、何も知らないまま、いつか忘れてくれたらいいと思ってた。無理して受け入れる必要なんてない。だって、そうしなければ心が壊れてしまうくらい、辛いことだったと思うもの」

「……うん」

「でも、あなたはアタシが思うより、ずっと強くなっていたのね」

理人さんが視線をこちらに向けたと同時に、私は首を横に振った。
私が強くなれたのだとしたら、それは理人さんのおかげなのだ。
彼がずっと、私の心を守ってくれたから。
そう伝えると、理人さんは照れた様子で「そんな大層なことなんてしてないわ」と笑った。



「わ、すごい……!」

「でしょう? ここ、県で一番大きなひまわり畑なんですって」