「雨音ちゃんよりずっと年上だけど、兄と姉だと思って仲良くしてあげてね」

「はい」

当たり前だ、彼女にだって家族がいるに決まっている。
私とは違うのだ。

理花子さんはよくても、もしかしたら彼女のご家族にとっては、私を引き取るなんて迷惑な話だったのではないだろうか。
理花子さんに引き取られることが決まってからというもの、私はずっとそのことを気に病んでいた。
しかしどうやら、そんな思いは杞憂に過ぎなかったらしい。

「やっと来たわ! 姉さん、早く!」

「やだっ、本当! ちっちゃい! かわいい!」

理花子さんのお家に迎えられた当日、彼女の車で出向くと、男の人と女の人が私を迎えてくれた。
二人とも長身で、朗らかな笑顔が理花子さんに似ている。
話に聞いていた彼女のお子さんだろうと、すぐに分かった。

「初めまして、雨音ちゃん。私は真田暖花。こっちは弟の理人よ。よろしくね」

「母さんから話を聞いて、あなたが来るのを楽しみにしていたの。さぁ、早く中に入って」

「は、はい」

満足な挨拶もできないまま、私はすぐにお家の中へと通された。
しかし会って早々だというのに、彼らはとても好意的に接してくれて、それが私の緊張を解してくれた。

「まさかこの歳になって妹ができるなんて、思ってもみなかった」

「あら、姉って歳かしら」

「言ってくれるわねぇ。あんただって性別不詳のくせに。雨音ちゃんが混乱しちゃうわ」

「いやね。どっからどう見たって、アタシは日本男児じゃない」

彼らが軽快に話すのを聞きながら、私たちは廊下を進んだ。
カントリー調の可愛い家具が並ぶ室内は、さすがはフラワーデザイナーの家とでも言うべきか、そこかしこに生花が飾られている。

「それから“もうひとり”家族を紹介するわ」

私が内装の美しさに目を奪われていると、理花子さんが廊下の奥から、小さな黒い子猫を抱きかかえて現れた。

「かわいい……!」

「キルシェっていう名前の女の子よ。うちのアイドルなの」

ふにゃあんと鳴いたその子は、小さな黒猫だった。
産まれたばかりなのか、よちよち歩く姿が本当にかわいらしい。
手を伸ばすと、人見知りもせずに私の胸に飛び込んできて、抱きよせればふわふわで温かかった。

「こっちがリビングで、あっちがバスルームね。雨音ちゃんの部屋は二階よ。家具はアタシが勝手に揃えちゃったから、あとで見てみて」

「理人ったら張り切っちゃってね。物置部屋をたった三日で大改造したの。すっごくメルヘンな部屋になっているわよ」

それから私は、キルシェを抱っこしたまま、家の中を案内してもらった。

どこもかしこも綺麗で上品なお家だ。
三人と一匹で過ごしていたのであろうこの家は、なんて幸せな空気に包まれているのだろう。
そんな空間に赤の他人である私が入り込んで、本当によかったのだろうか。
そう思うと、急に臆病な心が顔を覗かせる。
きゅっと腕に力が入ると、それに反応してキルシェが鳴いた。

「私たちに遠慮することなんてないからね。元々、うちの家族って変わっているの」

理人さんが繕ってくれたという部屋の真ん中でどうしようもなく立ち竦んでいると、私の心を読み取ったかのように暖花さんが呟いた。
びくりと体を震わせた私に驚いて、キルシェが腕から飛び出していく。