「もう、しょうがないわねぇ。優児くん、お母様の好きな色は?」
「え? ……ええっと、黄色とかオレンジだったと思いますが」
「分かったわ。それなら、そうね……」
優児さんの言葉を聞いた理人さんは、大量の花の中から黄色とオレンジ色のものだけを抜き取り、少し思案した末に白いカスミソウを加えた。
それらを瞬く間に螺旋状に組み上げていく。
迷いのないその手つきは、鮮やかに手品を繰りだすマジシャンのようだ。
そんな彼の手によって出来上がったのは、元気な色をしたスパイラルブーケだった。
「さぁ、どうかしら?」
「すごい……。とっても綺麗……!」
ラッピングペーパーとリボンでまとめてから美幸さんに手渡すと、受け取った彼女は目を丸くしながら感嘆の声をもらした。
どうやら見事に夢見心地になってしまったらしく、花束から目を逸らせなくなっている。
「どうしてかしら。色んな花が合わさったのに、全然ごちゃごちゃしてない」
「うふふ。色味も統一したし、カスミソウを入れてバランスをとったもの」
「カスミソウって、最後に加えた白い花ですか?」
そう尋ねたのは、美幸さんではなく優児さんの方だった。
彼は花束そのものよりも、理人さんの加えたカスミソウが気になったらしい。
「ええ。カスミソウは周りの花を綺麗に引きたててくれるの。派手な花ではないけど、なんというか、奥ゆかしさがあって素敵でしょう?」
理人さんの言うとおり、カスミソウは小さく控えめに咲く花だ。
それそのものだけで作る花束も可憐だが、他の花を引き立てるため花束に入れられることが多い。
健気に周りを支える、真っ白な花。
花言葉は【清らかな心】、【無邪気】、【親切】、【幸福】などがある。
そんなカスミソウは、なんだか優児さんが好きになった美幸さんにとてもよく似ていると思った。
きっと、彼も私と同じように思ったのだろう。
「……はい。とっても素敵です」
愛おしげに花束を見つめながら、優児さんはゆっくりと頷いた。
「美幸さんも優児さんも幸せそうでしたね」
「ええ、本当に。順調そうでよかったわ」
手をつなぎながら帰っていった二人を見送ってからも、私と理人さんはしばらく彼らの話を続けていた。
「ああいう姿を見てると、やっぱり恋人がほしくなっちゃうわよねぇ」
「理人さんなら、きっとすぐにできるのに」
「それがそうもないのよ。真面目なお付き合いなんてほとんどしたことがないし、ありがたいことに仕事も忙しいしね」
どうしようかしらとため息を吐きながら、理人さんがカウンターの上で頬杖をつく。
彼はそんなふうに言うけれど、私はなんとなく想像がつくような気がした。
理人さんの横に並んで笑う、女の人が。
どんな人かは分からないけれど、きっと美しい大人の女の人なのだろう。
遠くない将来、彼は新しい恋をする。
私の知らない、誰かと。
そう考えたら、なんだか少し息苦しくなるような心地がした。
暖花さんに恋人ができたときも寂しかったけれど、理人さんにも恋人ができたら、私の寂しさは計りしれないものになるのかもしれない。
いつの間にかとんだブラコンになってしまったと思いつつ、きりきりと痛む胸を押さえる。
いまだ頬杖をついたままの理人さんを見つめながら、私は思い浮かんだ未来を心の奥に押しこめた。
「え? ……ええっと、黄色とかオレンジだったと思いますが」
「分かったわ。それなら、そうね……」
優児さんの言葉を聞いた理人さんは、大量の花の中から黄色とオレンジ色のものだけを抜き取り、少し思案した末に白いカスミソウを加えた。
それらを瞬く間に螺旋状に組み上げていく。
迷いのないその手つきは、鮮やかに手品を繰りだすマジシャンのようだ。
そんな彼の手によって出来上がったのは、元気な色をしたスパイラルブーケだった。
「さぁ、どうかしら?」
「すごい……。とっても綺麗……!」
ラッピングペーパーとリボンでまとめてから美幸さんに手渡すと、受け取った彼女は目を丸くしながら感嘆の声をもらした。
どうやら見事に夢見心地になってしまったらしく、花束から目を逸らせなくなっている。
「どうしてかしら。色んな花が合わさったのに、全然ごちゃごちゃしてない」
「うふふ。色味も統一したし、カスミソウを入れてバランスをとったもの」
「カスミソウって、最後に加えた白い花ですか?」
そう尋ねたのは、美幸さんではなく優児さんの方だった。
彼は花束そのものよりも、理人さんの加えたカスミソウが気になったらしい。
「ええ。カスミソウは周りの花を綺麗に引きたててくれるの。派手な花ではないけど、なんというか、奥ゆかしさがあって素敵でしょう?」
理人さんの言うとおり、カスミソウは小さく控えめに咲く花だ。
それそのものだけで作る花束も可憐だが、他の花を引き立てるため花束に入れられることが多い。
健気に周りを支える、真っ白な花。
花言葉は【清らかな心】、【無邪気】、【親切】、【幸福】などがある。
そんなカスミソウは、なんだか優児さんが好きになった美幸さんにとてもよく似ていると思った。
きっと、彼も私と同じように思ったのだろう。
「……はい。とっても素敵です」
愛おしげに花束を見つめながら、優児さんはゆっくりと頷いた。
「美幸さんも優児さんも幸せそうでしたね」
「ええ、本当に。順調そうでよかったわ」
手をつなぎながら帰っていった二人を見送ってからも、私と理人さんはしばらく彼らの話を続けていた。
「ああいう姿を見てると、やっぱり恋人がほしくなっちゃうわよねぇ」
「理人さんなら、きっとすぐにできるのに」
「それがそうもないのよ。真面目なお付き合いなんてほとんどしたことがないし、ありがたいことに仕事も忙しいしね」
どうしようかしらとため息を吐きながら、理人さんがカウンターの上で頬杖をつく。
彼はそんなふうに言うけれど、私はなんとなく想像がつくような気がした。
理人さんの横に並んで笑う、女の人が。
どんな人かは分からないけれど、きっと美しい大人の女の人なのだろう。
遠くない将来、彼は新しい恋をする。
私の知らない、誰かと。
そう考えたら、なんだか少し息苦しくなるような心地がした。
暖花さんに恋人ができたときも寂しかったけれど、理人さんにも恋人ができたら、私の寂しさは計りしれないものになるのかもしれない。
いつの間にかとんだブラコンになってしまったと思いつつ、きりきりと痛む胸を押さえる。
いまだ頬杖をついたままの理人さんを見つめながら、私は思い浮かんだ未来を心の奥に押しこめた。