好奇心にかられて聞いてみると、優児さんは耳まで赤くして俯いた。
彼は大人の男の人だけど、今はまるで恋を知ったばかりの少年のように見える。

「女性はそういう話がお好きですよね」

「はい。ぜひ聞きたいです」

「きっかけはありきたりですよ」

彼は顔を赤くしたまま、ぽつりぽつりと美幸さんのことを話してくれた。

「俺が新入社員のとき、何度も仕事のフォローをしてもらったんです。たくさん迷惑かけたのに、彼女はいつも笑顔で励ましてくれました」

「美幸さんらしいです」

「はい。それからです。大変なことも率先してやるところとか、明るいだけじゃなくて、すごく気遣い屋なところに気づいたのは」

「そういうところを好きになったんですね」

すると、優児さんは照れ笑いをしながら頷いた。

「最初は告白しても、冗談だと思われていたんですけどね。俺は彼女よりも五つも年下だし、頼りないし、あっちから見たらどうしようもないガキですから」

優児さんの視線が再び美幸さんへと注がれる。
一生懸命に花を選ぶ彼女の姿に、彼の目が細められた。

「でも俺、頑張ります。いつか彼女に、俺を選んでよかったって思ってもらえるくらい、幸せにしたいんです」

その目は、私のよく知る目と同じ色をしていた。

それは、お客様が大切な人のためにお花を選んでいるときの目。
それは、暖花さんが旦那さんの話をしているときの目。
そしてそれは、理人さんが暖花さんを見つめているときの目。

――愛しい人を想う目だ。

トロイメライで過ごすうちに、私は人が人を想っているときの目を見抜けるようになっていた。

「あっ、美幸さんも気づいた」

「はは、本当だ」

優児さんの視線に気づいた美幸さんが、彼に向かって微笑みを返す。
その目もまた、彼への愛情で満ちていた。

「……すごいなぁ。」

好きな人に自分と同じくらい想ってもらえるというのは、どれくらい幸せなことなのだろう。
恋をしたことのない私には分からない。
けれどきっととてつもない、奇跡のようなことだと思う。
この二人のような幸せが、理人さんの元にも訪れてくれればいいのに。
そんなことを考えながら、優児さんとともに花束づくりの様子を眺めていると。

「ああもう、選べない……!」

数分後、美幸さんは困ったように声を上げた。
その声に驚き、優児さんとともに彼女の元に駆け寄れば、その腕にたくさんの花を抱えているのが見えた。

「どうしたんですか?」

「ああ、あのね。美幸ちゃんったら、使う花の種類で迷ってるの」

「だってここのお花、みんな素敵に見えるんだもの。全部贈りたくなっちゃって」

それを聞いて、もう一度美幸さんが抱えた花に目を落とす。
バラ、カーネーション、ガーベラ、カラー。
彼女の選んだ花はそれぞれに美しいが、色も形も様々だ。
このまま花束をつくるとなると、全体的なまとまりを出すことが難しくなってしまうのだろう。