懐かしむような口調で、理人さんはゆっくりと呟いた。

「でも、結局アタシが選ぶのは、姉さんに似た年上の人だったわ。そのうちそんな自分が滑稽に思えてきて、面白半分にこの口調で話すようになったら、蜘蛛の子を散らすように周りの女の子が去っていってくれたの」

「その代わり、今度はその手の男が寄ってきたこともあったわね」と、理人さんは冗談めかして言った。
きっかけはそんな始まりだったけれど、その口調は案外彼の性格に合っていたようで、いつの間にか癖になってしまっていたそうだ。

「それにしても、そんな昔の格好悪い話、雨音には知られたくなかったのに。……と言っても、今さらかしら。あなたには格好悪い姿ばかり見せてきてしまったもの」

自嘲するように言われて、私は一瞬、なんのことかと疑問に思った。

格好悪い姿とは、彼の涙を初めて見たときのような姿だろうか。
たしかに私は、暖花さんを想って傷つく理人さんの姿を見てきたけれど、そんな彼を格好悪いだなんて思ったことは一度もなかったのに。

「そんなことないよ。理人さんは今も昔も変わらない、私の憧れだよ」

だから思ったことを素直に告げただけだったのに。
理人さんは「お世辞が上手いのね」と言って、困ったように笑ってしまったのだった。



美幸さんが再びトロイメライを訪れてくれたのは、その次の週の日曜日のことだった。
清楚なワンピースに身を包んで現れた彼女は、今日は隣に長身の男性を連れている。
彼は紛れもない、写真で見せてもらった美幸さんの恋人だった。

「美幸さん! と、彼氏さん!」

「雨音ちゃん、久しぶり。今日はきちんとお客さんとして来たからね」

「またお会いできて嬉しいです」

「ふふ、こちらこそ」

店先で少しだけ談笑し、私は美幸さんから恋人の優児(ゆうじ)さんを紹介してもらった。
写真で見たとおりの長身である彼は、同じく長身である理人さんと同じか、それ以上に背が高い。
思ったとおり、おとぎ話に出てくる騎士のような人だ。
寄り添って並ぶ二人はとても幸せそうで、美幸さんの言っていた悩みが杞憂に思えてしまうくらいお似合いに見えた。

彼女曰く、今日は優児さんのお母さんの誕生日で、これから挨拶もかねてお会いしに行くらしい。
そこでプレゼントにお花を贈ろうと、二人でトロイメライに訪れてくれたそうだ。

「それなら気合いを入れて花束をつくらなくちゃね」

「よろしくね、理人くん」

意気込む美幸さんと理人さんは、さっそく切り花のコーナーへと向かった。
花束づくりは二人に任せ、男性にお花屋さんは少し居心地が悪いだろうと、優児さんを奥のカウンターへと案内する。
しかし優児さんは美幸さんから目を離さず、私がコーヒーの用意をしているあいだも、熱心に彼女を見つめていた。
その眼差しがあまりにも優しく、そしてどこか切なくて、私の心までじんとあたたかくなる。

「美幸さんのこと、大好きなんですね」

「えっ?」

そう言いながら優児さんの前にコーヒーを出すと、彼は驚きの声を上げた。

「ずっと見つめていらっしゃいますから」

「参ったな。そんなつもりはないんですけど……つい」

「ふふっ。あの、美幸さんのどんなところを好きになったんですか?」