自分の腕を眺めながら、私が人知れず肩を落としていると、美幸さんは突如、あっけらかんとした調子で大きな爆弾を落とした。
思わず飲んでいたアイスティーを噴き出しそうになり、慌てて口元を押さえる。
隣に座っていた理人さんも、私と同じく驚いたのか、げほげほとむせていた。
「そうなんですか!?」
「ええ。雨音ちゃんくらいの歳のころなんて、女を取っ替え引っ替えしてたわよ」
「ちょっとぉ、美幸ちゃん! この子の前で昔の話はやめてちょうだいよ!」
「そう言えば理人さん、昔はかなり夜遊びをしてたって聞いたことがあります」
「雨音!? どうしてあなたがそんなこと知ってるの!?」
理人さんは一瞬だけ慌てふためいたものの、私が断片的に彼の過去を把握しているということを知ると、観念した様子でため息を吐いた。
取っ替え引っ替えという予想以上の女性関係には衝撃を受けたが、だいたい理人さんのような格好いい人に女性の影が見えないことの方がおかしいのだ。
高校時代の彼の方が、男性としてはよほど健全に思える。
「学校の先輩だけじゃなくて、大学生とか社会人にまで手を出して。いつも決まって大人っぽいお姉さんばっかり連れていたわよね」
「わ、若気の至りよ……。この店を始めてからは仕事一筋なんだから」
「あら、本当かしら。そう言えば、高2のときなんて……」
「それを言うなら、美幸ちゃんだってあのとき……」
理人さんの彼女の話を皮切りに、二人は学生時代の話に花を咲かせはじめた。
砕けた口調で話をする理人さんは、なんだかいつもとは少し違って見える。
私と同じ歳だったころの彼は、きっとこんな感じだったのだろう。
私が出会う前の理人さんの話を耳にしながら、そのうち、彼について知らないことがまだたくさんあったのだと、私は気づかされた。
そんな彼のことを知っている美幸さんが、なんだか少し羨ましい。
「お世話になりました。今度はきちんとお客として来るわね」
「ええ。なんなら次は彼氏も連れてきなさいよ」
「お気をつけて」
お昼を食べ終えた後、美幸さんはそう言い残して帰っていった。
彼女を見送り、私と理人さんも午後の営業を開始するため、トロイメライへと戻る。
「ほんと、美幸ちゃんといると話が止まらないわ」
「私も、お会いできて楽しかった」
「でしょう? いい子なのよ」
ちょっとお喋りだけれどねと付け足して、理人さんは苦笑した。
「ねぇ、理人さんって、昔からそんな感じだったの?」
「そんな感じって?」
「その話し方、とか」
「ああ。この口調になったのはね、大学に入ったころからよ。それまではアタシも、自分のことを俺って言ってたんだから」
「ええっ!?」
初めて聞いた事実に、思わず驚きの声がもれた。
私と出会ったころの理人さんは、もうすでにその言葉遣いが板についていたから、彼の一人称が俺だったなんて想像がつかない。
「美幸ちゃんも言っていたとおり、高校生のころはいろんな女の子と遊んだの。他の子といれば、姉さんのことも忘れられると本気で思ってね」
思わず飲んでいたアイスティーを噴き出しそうになり、慌てて口元を押さえる。
隣に座っていた理人さんも、私と同じく驚いたのか、げほげほとむせていた。
「そうなんですか!?」
「ええ。雨音ちゃんくらいの歳のころなんて、女を取っ替え引っ替えしてたわよ」
「ちょっとぉ、美幸ちゃん! この子の前で昔の話はやめてちょうだいよ!」
「そう言えば理人さん、昔はかなり夜遊びをしてたって聞いたことがあります」
「雨音!? どうしてあなたがそんなこと知ってるの!?」
理人さんは一瞬だけ慌てふためいたものの、私が断片的に彼の過去を把握しているということを知ると、観念した様子でため息を吐いた。
取っ替え引っ替えという予想以上の女性関係には衝撃を受けたが、だいたい理人さんのような格好いい人に女性の影が見えないことの方がおかしいのだ。
高校時代の彼の方が、男性としてはよほど健全に思える。
「学校の先輩だけじゃなくて、大学生とか社会人にまで手を出して。いつも決まって大人っぽいお姉さんばっかり連れていたわよね」
「わ、若気の至りよ……。この店を始めてからは仕事一筋なんだから」
「あら、本当かしら。そう言えば、高2のときなんて……」
「それを言うなら、美幸ちゃんだってあのとき……」
理人さんの彼女の話を皮切りに、二人は学生時代の話に花を咲かせはじめた。
砕けた口調で話をする理人さんは、なんだかいつもとは少し違って見える。
私と同じ歳だったころの彼は、きっとこんな感じだったのだろう。
私が出会う前の理人さんの話を耳にしながら、そのうち、彼について知らないことがまだたくさんあったのだと、私は気づかされた。
そんな彼のことを知っている美幸さんが、なんだか少し羨ましい。
「お世話になりました。今度はきちんとお客として来るわね」
「ええ。なんなら次は彼氏も連れてきなさいよ」
「お気をつけて」
お昼を食べ終えた後、美幸さんはそう言い残して帰っていった。
彼女を見送り、私と理人さんも午後の営業を開始するため、トロイメライへと戻る。
「ほんと、美幸ちゃんといると話が止まらないわ」
「私も、お会いできて楽しかった」
「でしょう? いい子なのよ」
ちょっとお喋りだけれどねと付け足して、理人さんは苦笑した。
「ねぇ、理人さんって、昔からそんな感じだったの?」
「そんな感じって?」
「その話し方、とか」
「ああ。この口調になったのはね、大学に入ったころからよ。それまではアタシも、自分のことを俺って言ってたんだから」
「ええっ!?」
初めて聞いた事実に、思わず驚きの声がもれた。
私と出会ったころの理人さんは、もうすでにその言葉遣いが板についていたから、彼の一人称が俺だったなんて想像がつかない。
「美幸ちゃんも言っていたとおり、高校生のころはいろんな女の子と遊んだの。他の子といれば、姉さんのことも忘れられると本気で思ってね」