三人でダイニングテーブルを囲んでいると、なんだか懐かしい心地がした。
暖花さんは同棲をし始めたころから、彼女は在宅勤務の旦那さんと食事をとるようになり、私と理人さんは必然的に二人きりになっていたのだ。
たしかに人数が多い方が賑やかで楽しいし、ごはんも美味しいなぁと思っていると。

「それにしても、今日の気温は今年最高だって、ニュースでも言ってたでしょう? 気をつけないと」

パスタをフォークにくるくると巻きつけながら、理人さんはまるでお母さんのような口調でそう言った。

「うん。ダイエットのために走ってたんだけど、ちょっと無理しちゃったみたい」

「まぁ! “食べるのを我慢するくらいなら太っていた方がマシ”とまで言ってた美幸ちゃんが、どういう心境の変化?」

「んっとね……」

理人さんの問いに少しだけ迷った様子を見せた美幸さんは、ポケットに入れていたらしいスマートフォンを取り出した。
数度スワイプをして、見せてくれたのは一枚の写真。
そこには桜の木に寄りかかった、これまた見知らぬ黒髪の男性が写っていた。

「あら、カッコいい子」

「モデルさんみたいですね」

整った顔立ちで、八頭身はありそうな、スタイルのいい人だ。
理人さんをきらきらした王子様に例えるなら、彼はクールな騎士のような人といったところだろうか。

けれどもテレビや雑誌で見たような覚えはないから、たぶん芸能人ではないのだろう。
理人さんの反応を見るに二人の同級生でもないようだが、だとしたらこの人は誰なのだろうか。

「実はね。この人、私の彼氏なの」

彼の正体を推察していると、美幸さんは実に単純明快な答えを出してくれた。
もう一度スワイプして見せてくれた別の写真には、桜並木を背景に寄り添う、幸せそうな二人が写っている。

「やだっ! いい男を捕まえたじゃない!」

「素敵ですね! すっごくお似合いです……!」

「そんな、お世辞なんて言わなくていいのよ? 私たち、どう見ても釣り合わないでしょう?」

しかし、幸せそうに見える写真とは対照的に、美幸さんは切ない胸の内を打ち明けてくれた。

美幸さんの恋人は、彼女が入社5年目のときに新卒で入社したという、会社の後輩らしい。
彼女が新人の教育係になったことをきっかけに急接近した二人は、彼からの猛アタックの末、この春からめでたくお付き合いを始めたそうだ。

「でも私はこのとおり太ってるし、彼の横に並ぶにはふさわしくないと思ったの。だから少しでも綺麗になりたくて、ダイエットを始めたんだ」

「そうだったの。愛の力で女の子は変わるのね」

好きな人のために綺麗になりたいなんて、きっと自然な女心なのだろう。
私は恋人がいるわけではないけれど、華奢な女の子に憧れるという点では、美幸さんの心が痛いほど分かる。

なぜなら私も周りの女の子に比べて、格段に筋肉質な体をしているのだ。
花屋の業務は一見華やかに見えるが、力仕事も多く、私は体質的に筋肉もつきやすい。
理人さんのお手伝いを頑張っている証だと誇ることもできるけれど、やはり暖花さんのようなすらりとした女の人が近くにいると、羨ましく思ってしまうことも事実だった。

「理人くんは最近どうなの? 昔はかなり遊んでたじゃない」