――7月。

気がつけばもう、暖花さんの結婚式からひと月以上が経っている。
梅雨もとうに明け、季節が本格的に夏へと移りゆくなか、私は相変わらず、時に忙しく時に穏やかなトロイメライでの日常を過ごしていた。

「暑い……」

額ににじむ汗を拭いながら、ふぅと息を吐く。

今日は日曜日、時刻は午前11時、天気は快晴。
じりじりと照りつける太陽の下、私は朝からお店のお手伝いをしていた。

トロイメライの中は温度管理がされていて、夏場でもとても涼しいのだが、一歩店の外に出ればむせ返るような暑さだ。
天気予報では、気温が今年最高にまで達すると言っていた。
お客様が少ないからと倉庫の整理をしていたけれど、空調の効かない屋外で仕事をしていると、そのうち倒れてしまうかもしれない。

とりあえず、日が暮れるまではトロイメライの中にいた方が良いだろう。
そう思い、踵を返した瞬間だった。

「……キルシェ?」

どこか遠くの方から突然、裏庭の木陰で涼んでいたはずのキルシェの鳴き声が聞こえた。

いつもはとても大人しい彼女が、なぜだか外に出て激しく鳴いている。
何かあったのだろうかと鳴き声のする方へと探しにいくと、キルシェは近くにある月極駐車場にいるようだった。
真っ黒な後ろ姿を見つけて駆け寄れば、その傍にはしゃがんだ女性らしき人影もある。

「キルシェ、どうしたの……って」

知らない人に遊んでもらっていたのかと思ったのだが、どうやら違うようだ。

キルシェの傍にいた女性は、気分が悪くなってしまったのか、うずくまりながら荒い呼吸をしていた。

「大変……! 大丈夫ですかっ!?」

慌てて声をかけると、女性はゆっくりと私を見上げた。
顔が青ざめていて具合はとても悪そうだが、意識はしっかりとしているようだ。

「すみません……ちょっと目眩がして……」

「私、すぐ近くの家の者です! どうぞ休んでいってください!」

「ありがとうございます……」

この暑さだ、たぶん熱中症か何かになってしまったのだろう。
そう思った私は、急いで彼女に肩を貸し、家の中へと招き入れた。



「本当にありがとうございました。あなたのおかげで助かったわ」

「いえ、大事ないみたいでよかったです」

幸い症状が軽かったおかげで、女性はそれからすぐに回復した。
顔色も先ほどよりずっとよくなっている。

それにしても、キルシェが知らせてくれなければ、もっと大変なことになっていたかもしれない。
彼女はなんというか、とても人に敏感なようで、たまにとてつもない働きをしてくれたりするのだ。
そう思いながら、キルシェのお手柄を褒めるように彼女の頭を撫でる。

「あの。失礼ですけど、こちらって真田理人さんのお宅ですよね?」

すると突然、女性は理人さんの名前を口にした。

「えっ……? えっと、はい、そうですが」

「ああ、やっぱり。ちょうどね、写真が見えたんです。勝手にごめんなさいね」