「颯司、ちょっと用事があるから、雨音のこと連れていくわよ」
「ん。じゃあ先に入ってるな」
そう言って颯司くんに断りを入れると、理人さんは私の手を取り、披露宴会場とは逆方向に歩みを進めた。
だが、そちらの方向にあるのはただの控え室だ。
もうすぐ披露宴も始まる時間だというのに、どうしたのだろう。
「理人さんっ、用事って何?」
「それは見てからのお楽しみ。さあ、こっちよ」
理人さんに促されて入ったのは、やはり家族用の控え室だった。
ここに、一体何があるのだろうか。
頭に疑問符を浮かべたまま彼の動向を見守っていると、理人さんは隅に置いてあった紙袋の中から、何やら小さな物を取り出した。
「これ、雨音にプレゼント。受け取って」
振り向きざまに差し出されたそれは、透明なプラスチックでできた小さな箱だった。
赤いリボンが結ばれたその中には、白いバラが咲いているのが見える。
「生花のコサージュ? すごく綺麗……」
「ええ。アタシも似たデザインのブートニアをつくったから、披露宴が始まったらおそろいで付けましょう?」
「うん。ありがとう、理人さん」
いつの間にこんな素敵な物をつくっていたのだろうか。
繊細で美しいコサージュを受け取った私は、箱からそっと取り出して眺め、感嘆の息をもらした。
メインの白バラやグリーンは、暖花さんのブーケに使われていたものと同じ品種だろう。
それらがブーケとは違う組まれ方をされることで、きちんとひとつの個性があるコサージュとして出来上がっている。
やっぱり、彼の腕は目を見張るほどにすごい。
「あれ? でも、これは……?」
しかしコサージュに使われた花材の中で、なぜかひとつだけ、暖花さんのブーケには使われていないものがあった。
バラを支えるようにひっそりと咲く、それはまるでベルのような形をした優しい花。
白のカンパニュラ。
「そのカンパニュラは、アタシから雨音へのメッセージよ。あなたなら分かるでしょう?」
そう問われて、すぐに思いついたのは花言葉だった。
カンパニュラの花言葉は【誠実】や【節操】、それから。
「【感謝】……?」
「正解」
導き出した私の答えに、理人さんは満足そうに笑った。
彼の目を見ていれば、その気持ちが十分に伝わっめくる。
真っ白なコサージュをワンピースの襟元につけて、私は彼の心を真っ直ぐに受け止めた。
「アタシ、やっと前を向けるわ。きっと新しい恋だってできる」
「うん」
「超がつくほどの一途よ。仕事だって真面目だし。なんなら顔も悪くはないでしょう? 優良物件だと思わない?」
「ふふっ、自分で言ったら台無しだよ」
「それもそうね」
理人さんの半分本気な冗談に、くすくすと笑う。
大丈夫、今までのことを忘れたりするわけじゃない。
痛みの伴う思い出があっても、前に進むことはできるということを、私はよく知ってるから。
「さぁ、今日は目一杯、姉さんを祝いましょう」
煌びやかな式場に向かって、再び歩き出す。
祝福の鐘が鳴るかのように、私の胸元でカンパニュラが揺れた。
「ん。じゃあ先に入ってるな」
そう言って颯司くんに断りを入れると、理人さんは私の手を取り、披露宴会場とは逆方向に歩みを進めた。
だが、そちらの方向にあるのはただの控え室だ。
もうすぐ披露宴も始まる時間だというのに、どうしたのだろう。
「理人さんっ、用事って何?」
「それは見てからのお楽しみ。さあ、こっちよ」
理人さんに促されて入ったのは、やはり家族用の控え室だった。
ここに、一体何があるのだろうか。
頭に疑問符を浮かべたまま彼の動向を見守っていると、理人さんは隅に置いてあった紙袋の中から、何やら小さな物を取り出した。
「これ、雨音にプレゼント。受け取って」
振り向きざまに差し出されたそれは、透明なプラスチックでできた小さな箱だった。
赤いリボンが結ばれたその中には、白いバラが咲いているのが見える。
「生花のコサージュ? すごく綺麗……」
「ええ。アタシも似たデザインのブートニアをつくったから、披露宴が始まったらおそろいで付けましょう?」
「うん。ありがとう、理人さん」
いつの間にこんな素敵な物をつくっていたのだろうか。
繊細で美しいコサージュを受け取った私は、箱からそっと取り出して眺め、感嘆の息をもらした。
メインの白バラやグリーンは、暖花さんのブーケに使われていたものと同じ品種だろう。
それらがブーケとは違う組まれ方をされることで、きちんとひとつの個性があるコサージュとして出来上がっている。
やっぱり、彼の腕は目を見張るほどにすごい。
「あれ? でも、これは……?」
しかしコサージュに使われた花材の中で、なぜかひとつだけ、暖花さんのブーケには使われていないものがあった。
バラを支えるようにひっそりと咲く、それはまるでベルのような形をした優しい花。
白のカンパニュラ。
「そのカンパニュラは、アタシから雨音へのメッセージよ。あなたなら分かるでしょう?」
そう問われて、すぐに思いついたのは花言葉だった。
カンパニュラの花言葉は【誠実】や【節操】、それから。
「【感謝】……?」
「正解」
導き出した私の答えに、理人さんは満足そうに笑った。
彼の目を見ていれば、その気持ちが十分に伝わっめくる。
真っ白なコサージュをワンピースの襟元につけて、私は彼の心を真っ直ぐに受け止めた。
「アタシ、やっと前を向けるわ。きっと新しい恋だってできる」
「うん」
「超がつくほどの一途よ。仕事だって真面目だし。なんなら顔も悪くはないでしょう? 優良物件だと思わない?」
「ふふっ、自分で言ったら台無しだよ」
「それもそうね」
理人さんの半分本気な冗談に、くすくすと笑う。
大丈夫、今までのことを忘れたりするわけじゃない。
痛みの伴う思い出があっても、前に進むことはできるということを、私はよく知ってるから。
「さぁ、今日は目一杯、姉さんを祝いましょう」
煌びやかな式場に向かって、再び歩き出す。
祝福の鐘が鳴るかのように、私の胸元でカンパニュラが揺れた。