大概は素敵な言葉やかわいらしい言葉をつけられているようだか、中には面白いものや怖いものまであるそうだ。
変わったものでいうと、スノードロップは“希望”という花言葉を持つが、人に贈ると“あなたの死を望みます”という意味になる。
パセリは“お祭り気分”らしいが、私はまず、パセリにまで花言葉がついていることに驚きだった。
ならばきっと、私がお母さんと育てた花も、何か言葉を持っていたはずだ。
それは一体、何だったのだろうか。
初めて知った面白い話に、気持ちが和らぐのを感じる。
それは、家族を失ってから初めて得た安らぎの時間だった。
「ねぇ。あなた、私と来ない? こんな辛気臭いところにいるより、ずっと楽しいわよ」
そうしてしばしの間、花の話に興じていると、彼女は突然、まるで遊びにでも誘うかのように、私にそんな提案をした。
「えっと……」
降ってわいた話に、思わず言葉が詰まる。
彼女だって私の境遇を知っているはずだ。
ならばそれは、私を引き取るという意味なのだろうか。
「嫌かしら?」
「でも……」
「でも?」
「……迷惑になりますから」
あんな小さい子を育てるなんて大変なのよと、親戚の人たちが言っていたのを覚えている。
見ず知らずの子供を引き取るなんて、簡単なことではないのだろう。
ひとときの安らぎをくれた人に、私はそんな迷惑をかけたくはなかった。
それに私は、早くお母さんたちのところに行かなくてはいけないのだ。
二人ともきっと、残していった私を心配している。
私だって、二人と長く離れていては寂しさが増していってしまう。
「迷惑だとか、そんなことは考えなくていいわ。あなたはあなたの思うように生きればいいの」
けれどその言葉を聞いて、私は不覚にも嬉しいと思ってしまった。
彼女の手を取りたい。
彼女の話をもっと聞いてみたい。
そう思ってしまったのだ。
「どうかしら?」
迷う私を、彼女は穏やかな面持ち待ち続けた。
サルビアと同じ色の唇が、綺麗に弧を描いている。
その色に、見惚れた。
どうしようもなく。
「……お願いします」
気づいたときには小さな声で応えていた。
胸の前で握りしめた手が、かすかに震えている。
「こちらこそ」
そんな私の手を、彼女はその唇とは対照的な白い手で包んでくれた。
伝わってくるほんのりとした温かさが、優しくて切ない。
もう少しだけ、生きていてもいいかな。
すぐにそちらに向かうから。
あと、少しだけ。
心の中でそんな言い訳じみた言葉を並べて、私は誰のものかも知らない、あの花壇のある家を去ることになった。
「今日からよろしくね、雨音ちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私を引き取ってくれた女性は、名前を真田理花子さんといった。
職業がフラワーデザイナーだということだけは聞いていたが、驚くことに、彼女には26歳の娘さんと20歳の息子さんがいるらしい。
変わったものでいうと、スノードロップは“希望”という花言葉を持つが、人に贈ると“あなたの死を望みます”という意味になる。
パセリは“お祭り気分”らしいが、私はまず、パセリにまで花言葉がついていることに驚きだった。
ならばきっと、私がお母さんと育てた花も、何か言葉を持っていたはずだ。
それは一体、何だったのだろうか。
初めて知った面白い話に、気持ちが和らぐのを感じる。
それは、家族を失ってから初めて得た安らぎの時間だった。
「ねぇ。あなた、私と来ない? こんな辛気臭いところにいるより、ずっと楽しいわよ」
そうしてしばしの間、花の話に興じていると、彼女は突然、まるで遊びにでも誘うかのように、私にそんな提案をした。
「えっと……」
降ってわいた話に、思わず言葉が詰まる。
彼女だって私の境遇を知っているはずだ。
ならばそれは、私を引き取るという意味なのだろうか。
「嫌かしら?」
「でも……」
「でも?」
「……迷惑になりますから」
あんな小さい子を育てるなんて大変なのよと、親戚の人たちが言っていたのを覚えている。
見ず知らずの子供を引き取るなんて、簡単なことではないのだろう。
ひとときの安らぎをくれた人に、私はそんな迷惑をかけたくはなかった。
それに私は、早くお母さんたちのところに行かなくてはいけないのだ。
二人ともきっと、残していった私を心配している。
私だって、二人と長く離れていては寂しさが増していってしまう。
「迷惑だとか、そんなことは考えなくていいわ。あなたはあなたの思うように生きればいいの」
けれどその言葉を聞いて、私は不覚にも嬉しいと思ってしまった。
彼女の手を取りたい。
彼女の話をもっと聞いてみたい。
そう思ってしまったのだ。
「どうかしら?」
迷う私を、彼女は穏やかな面持ち待ち続けた。
サルビアと同じ色の唇が、綺麗に弧を描いている。
その色に、見惚れた。
どうしようもなく。
「……お願いします」
気づいたときには小さな声で応えていた。
胸の前で握りしめた手が、かすかに震えている。
「こちらこそ」
そんな私の手を、彼女はその唇とは対照的な白い手で包んでくれた。
伝わってくるほんのりとした温かさが、優しくて切ない。
もう少しだけ、生きていてもいいかな。
すぐにそちらに向かうから。
あと、少しだけ。
心の中でそんな言い訳じみた言葉を並べて、私は誰のものかも知らない、あの花壇のある家を去ることになった。
「今日からよろしくね、雨音ちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私を引き取ってくれた女性は、名前を真田理花子さんといった。
職業がフラワーデザイナーだということだけは聞いていたが、驚くことに、彼女には26歳の娘さんと20歳の息子さんがいるらしい。