颯司くんの言葉に笑いながら、先ほどの二人の姿を思い出す。
バージンロードを並んで歩く美しい二人は、誰が見ても理想の姉弟の姿に見えていただろう。
暖花さんを慈しむように見守る理人さんは、花嫁の完璧な弟だった。

けれど、彼の心の奥底までは分からない。
理人さんは大人だから、どんな感情でも笑顔の裏に隠すことができる。
私だって彼の心が崩れたのを見たのは、“あの夜”の一度きりなのだから。

しかしあの瞬間の彼は、心の底から幸せそうに見えた。
嫉妬や苦しみの感情なんて欠片もなく、すっかりと吹っ切れたように見えたのだ。
そう感じられたことが、私は何より嬉しかった。

「あっ、雨音がつくるって言ってたやつってこれ?」

「うん、そうだよ」

颯司くんが見つけたのは、披露宴会場前に設置されたウェルカムボードだった。
シックで上品な色合いの花でできたそれは、落ち着いた大人な二人をイメージしてつくったものだ。

「へぇ、いいじゃん」

「理花子さんに言わせれば、まだ個性が足りないみたいだけどね」

「ふぅん。ゲージュツっていうのは分からないな」

颯司くんが眉間に皺を寄せて首を傾げる。

理花子さんの言うとおり、このウェルカムボードには、作者である私の気持ちがこもっているのだろう。
けれど改めて自分のつくったものを見てみると、たしかに二人に比べて凡庸に見えた。

「……私、負けたくないな」

私だって唯一無二だと思われるくらい、衝撃的な作品を生み出してみたい。
そう思ってぽつりと呟くと、颯司くんが意外そうに私を見下ろした。

「雨音がそんなことを言うなんて珍しい」

「そうかな? って、うわっ……!?」

すると突然、立ち止まっていた私の背後から、誰かの手が伸びてきた。
そのまま、なぜかその手が私の視界を覆う。

「えっ、えっ? あの、」

謎の行為に戸惑いの声を上げるも、後ろにいる人物は何も言葉を発さなかった。
ただ大きさや皮膚の感触から、この手が男性のものだということは分かる。
けれど今日の出席者の中に、知り合いの男の人なんてほとんどいないはずなのに。

私と誰かを間違えているのだろうか。
そう思って困惑していると、私の慌てぶりが面白かったのだろうか、耐えきれずに漏れたような笑い声が後ろから聞こえた。

「ちょっと、理人さん!?」

「あら、もう分かっちゃった?」

「低い声でうふふって言われたら分かるよ!」

“犯人”の特徴的な笑い方を指摘して振り向けば、当の彼はとても愉快そうに笑った。

「仲良く話してたところだったのに悪いわね。後ろから見たら可愛いカップルみたいだったわよ」

「もう、何言ってるの」

どうやら人をからかう余裕もあるらしい。
その様はやはりこの結婚式を楽しんでいるように見えて、私は密かに胸を撫で下ろした。