元々、この近辺で花について学べる学校が、他には理人さんの母校である国立大学の園芸学部しかない。
しかしその学部は偏差値も倍率も高く、平凡な成績の私が目指すには、なかなか厳しいものがあった。

「じゃあ雨音も地元に残るのか」

「そのつもりなんだけど、先生たちからは県外の学校を薦められてるんだよね」

地元にこだわらず、広い視野を持って将来のことを考えろ。
それは、どの先生も口を揃えて言った言葉だった。
彼らの言うとおり、県外にも目を向ければ選択肢はかなり広がる。

「でも、興味ないんだ。私、トロイメライのお手伝いが好きだし。理人さんの傍でだって、学べることはたくさんあるから」

「そっか」

「まだ時間はあるから、もう少し考えてみるつもりだけどね」

けれど、この考えが変わる気配はなかった。

わざわざ見知らぬ遠いところまで行くことなんてない。
これまでと同じように、私は理人さんの隣で花を慈しんでいけたらいい。
この街で過ごす穏やかな日常こそが、きっと自分にとって一番の幸せなのだと、そのときの私は、まるで自分に言い聞かせるようにそう思っていた。