「すみません、生意気なことを言ってしまって」
「……いえ、嬉しいです」
すると私の震える手から、彼はポプリを受け取ってくれた。
私も理人さんのように、人々を夢見心地にさせてみたい。
そう願いながら何度も想像した、ポプリがお客様の手に取られる瞬間を目の当たりにする。
「あなたの仰るとおりですね。物よりも何よりも、まず伝えなければならないのは私の気持ちだ」
慈しむようにポプリを眺める彼の瞳に、私は見覚えがあった。
その目は――愛しい人を想う目。
夢見心地とまではいかないかもしれないけれど、それに近い感情が、彼の中に見えた気がした。
「妻の支えになれるように、言葉を尽くそうと思います。……が、これならきっと妻も楽しめるはずだ。花言葉のお話も伝えたいので、おひとついただけますか?」
「は、はいっ……!」
あまりの喜びに声が裏返り、照れ笑いをする。
こんな私でも、お客様の幸せに寄り添うことができたのだろうか。
喜びを噛みしめながらカウンターの方へと振り向くと、私を見守ってくれていた理人さんと目が合った。
「よく頑張ったわね、雨音」
「うん! ありがとう、理人さん」
プレゼント用にラッピングしたポプリを渡してお客様をお見送りすると、理人さんはすぐさま私の頭をわしゃわしゃと撫で、褒めてくれた。
その行為に照れつつ、自分でも少しだけ誇らしく思う。
私がフラワーデザイナーを志したのは、花で人を魅了する理人さんに憧れたことのほかに、もうひとつ理由があった。
それは花を愛するようになって私が救われたように、今度は私が誰かを救いたいと思ったからだ。
私、やっぱりフラワーデザイナーになりたい。
この経験を通して、私の夢への思いはまたひとつ膨らんだような気がした。
「3年になって、初っ端から進路希望調査かよ……」
颯司くんの気だるい声を聞いて、私も苦笑いをしながら頷く。
――4月。
新学期になり、私と総司くんはついに高校生活最後の年を迎えていた。
去年に引き続き、今年もまた同じクラスになった私たちは、なんと席までも隣同士になり、お互いに腐れ縁だと嘆いている。
そんな中、新学期早々に渡された進路希望調査の紙を眺めながら、彼はずっと苦々しい顔をしていた。
「今までの考えに囚われずに書けって言われても、俺は実家を継ぐことしか頭にないし、第三希望までなんて埋められねーよ」
腕を組んだ颯司くんが、うーんと唸り声を上げる。
彼の夢は、実家の運送会社を継ぐことだ。
働くお父さんの後ろ姿を見て育った彼は、ずっとその大きな背中に憧れていて、ゆくゆくはそんなお父さんを越える人間になりたいのだと言う。
高校を卒業したら、跡継ぎとして本格的に働きたいそうだ。
「なぁ。雨音は第一志望、どこ書いた?」
「すぐそこの専門学校だよ」
就職組である彼に対し、私はトロイメライから通え、花について学べる学校への進学を希望している。
そこで第一希望に書いたのが、トロイメライからもほど近い場所にある、デザインの専門学校だった。
美術や被服の学科が有名な学校なのだが、数年前にフラワーデザインの学科も創設されたのだ。
「……いえ、嬉しいです」
すると私の震える手から、彼はポプリを受け取ってくれた。
私も理人さんのように、人々を夢見心地にさせてみたい。
そう願いながら何度も想像した、ポプリがお客様の手に取られる瞬間を目の当たりにする。
「あなたの仰るとおりですね。物よりも何よりも、まず伝えなければならないのは私の気持ちだ」
慈しむようにポプリを眺める彼の瞳に、私は見覚えがあった。
その目は――愛しい人を想う目。
夢見心地とまではいかないかもしれないけれど、それに近い感情が、彼の中に見えた気がした。
「妻の支えになれるように、言葉を尽くそうと思います。……が、これならきっと妻も楽しめるはずだ。花言葉のお話も伝えたいので、おひとついただけますか?」
「は、はいっ……!」
あまりの喜びに声が裏返り、照れ笑いをする。
こんな私でも、お客様の幸せに寄り添うことができたのだろうか。
喜びを噛みしめながらカウンターの方へと振り向くと、私を見守ってくれていた理人さんと目が合った。
「よく頑張ったわね、雨音」
「うん! ありがとう、理人さん」
プレゼント用にラッピングしたポプリを渡してお客様をお見送りすると、理人さんはすぐさま私の頭をわしゃわしゃと撫で、褒めてくれた。
その行為に照れつつ、自分でも少しだけ誇らしく思う。
私がフラワーデザイナーを志したのは、花で人を魅了する理人さんに憧れたことのほかに、もうひとつ理由があった。
それは花を愛するようになって私が救われたように、今度は私が誰かを救いたいと思ったからだ。
私、やっぱりフラワーデザイナーになりたい。
この経験を通して、私の夢への思いはまたひとつ膨らんだような気がした。
「3年になって、初っ端から進路希望調査かよ……」
颯司くんの気だるい声を聞いて、私も苦笑いをしながら頷く。
――4月。
新学期になり、私と総司くんはついに高校生活最後の年を迎えていた。
去年に引き続き、今年もまた同じクラスになった私たちは、なんと席までも隣同士になり、お互いに腐れ縁だと嘆いている。
そんな中、新学期早々に渡された進路希望調査の紙を眺めながら、彼はずっと苦々しい顔をしていた。
「今までの考えに囚われずに書けって言われても、俺は実家を継ぐことしか頭にないし、第三希望までなんて埋められねーよ」
腕を組んだ颯司くんが、うーんと唸り声を上げる。
彼の夢は、実家の運送会社を継ぐことだ。
働くお父さんの後ろ姿を見て育った彼は、ずっとその大きな背中に憧れていて、ゆくゆくはそんなお父さんを越える人間になりたいのだと言う。
高校を卒業したら、跡継ぎとして本格的に働きたいそうだ。
「なぁ。雨音は第一志望、どこ書いた?」
「すぐそこの専門学校だよ」
就職組である彼に対し、私はトロイメライから通え、花について学べる学校への進学を希望している。
そこで第一希望に書いたのが、トロイメライからもほど近い場所にある、デザインの専門学校だった。
美術や被服の学科が有名な学校なのだが、数年前にフラワーデザインの学科も創設されたのだ。