「でも、きちんと準備していたのなら、それは確実に力になっているものなのよ」

「……うん。たしかにそうかもしれない」

「ね? だから怖くなるのもしょうがない。でも自信までなくすことないの。アタシのダメ出しにも負けずに、あんなにもたくさん考えた商品じゃない」

理人さんの言うとおり、デザインも花材も香りも、私は繰り返し試行して一番いいと思えるものを選んできた。
花に興味を持ってもらえるように、花言葉を交えて、自分なりに工夫もした。
だからこんなにも不安になるのは、たくさん努力を積んできた証だと、理人さんは言う。
彼がそう言ってくれるなら、私も自信を持ちたい。

「あのポプリは素敵よ。アタシの太鼓判を押すわ」

「本当に……?」

「ええ。だから明日は、そのよさをきちんとお客様に伝えて。きっと喜んでもらえるから」

理人さんの言葉に、ゆっくりと頷く。

上手くできるかどうかは分からない。
今日のように不安になってしまうかもしれない。
それでも、頑張ってみよう。
私には理人さんがついている。
こんなにも頼りになる人が居るんだから、恐れることなんて何もない。

「ありがとう。理人さんって、やっぱりすごいね」

「あら、今ごろ気がついたの?」

そう言ってかわいらしくウインクをした理人さんを見て、私はやっと、いつものように笑うことができた。



「はぁ……」

ため息を吐くと幸せが逃げるんだって。
そんな迷信を思い出しながらも、私はもうひとつため息を吐いた。

理人さんの誕生日パーティーはやはりいつも以上に盛り上がり、とても楽しい時間が過ごせた。
そんな明るい気分のまま、理人さんに勇気づけてもらったことを自信に変えて、明日こそ張ろうと思っていたのだ。

けれど、翌日。
やはりたくさんのお客様で賑わいを見せていたトロイメライは、閉店の一時間前まで落ち着くことがなかった。
多分、今月で一番人が入ったのではないだろうか。
そんな忙しさもあり、私はまたしてもお客様にポプリのことを紹介することができなかったのだった。

自信は持っている。
けれど、今ひとつ自分の殻を破れない。

「はぁ……」

三回目のため息を吐いた所で、私は思い直し、無理やり笑顔をつくった。

落ち込んでいたって、どうにかなるわけではない。
私が一歩踏み出さなくては、現状は何も変わらないのだから。

しかし、もう時間も遅い。
明日こそはと思いつつ、閉店準備に取りかかるために、箒を片手に店先へと出る。

「ん……?」

すると店先の鉢植えの前に、スーツ姿の男性を見つけた。

仕事帰りなのだろうか。
トロイメライの目の前に居るのだからお客様だとは思うのだが、しかし彼は商品を詳しく見るわけでもなく、どこかぼんやりとしている。
疲れているのか、表情も心なしか暗い。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

見かねて声をかけると、彼はハッとした様子で私に視線を移した。