「でも、あなたの苦しみなら、アタシは手に取るように分かるわ」
「そうなの……?」
「当たり前じゃない。物を生み出すのって、本当に大変なことよね」
まさか、理人さんも私と同じ理由で悩むことがあるなんて。
思いがけない言葉に、私はきょとんとしながら彼を見つめた。
もちろん理人さんが努力を欠かさないことは知っているけれど、どちらかと言えば天才型の彼だから、私のような思いはしないのではないかと思っていたのだ。
「つまり、どういうことだよ」
一方、わけが分からないといったふうな颯司くんに、私は自分の気持ちを確かめながら答えた。
「えっとね、私、怖くなっちゃったんだ」
ポプリを売ることができなかったわけ。
それは、自分の臆病な心のせいだった。
トロイメライには用途に合わせた生花を求めて来店されるお客様が多いから、たしかに雑貨の商品は売れ筋ではない。
そのため、購入されたお花を包んだりアレンジを施しているあいだに、雑貨をおすすめして買っていただくことが多いのだ。
他の商品も見ていかれませんか、と言って。
いつもなら当たり前に出てくるそんな言葉が、けれども今日の私には言えなかった。
雑貨コーナーでの目玉は、やはり新商品だ。
つまり、私の考えたポプリである。
陳列したときは誰かの手に取られる瞬間を心待ちにしていたそんなポプリ。
しかしいざお客様を目の前にした私は、急に恐ろしくなってしまったのだ。
本当に気に入ってもらえるのかな、とか。
もしかしたらトロイメライに置くには相応しくなかったかもしれない、とか、そんなことを考えて。
「そう思ったら、堂々と勧められなかったの」
何度も構想を重ね、理人さんに協力してもらい、やっとできた商品だ。
少しでも、お花の魅力を広めたい。
そんな気持ちをたくさん込めて考えたのに、自分の弱さのせいで伝えられなかったことが、私は心底悔しかった。
「なるほど、そういうことか」
「うん。でも本当に、理人さんも怖いと思うことがあるの?」
「ええ、勿論。お客様に気に入ってもらえるか、いつでもドキドキハラハラしてるわよ?」
理人さんは私を慰めるために嘘なんか吐かない。
だからきっと、それは本当のことなのだろう。
理人さんには確固たる実力があり、いつだって堂々とにこやかにしているから、俄かには信じられないことだけれど。
「そんなときはね、こう考えるの。自分が心配になるのは、それだけ準備を重ねたからなんだって」
続けてアドバイスをくれた理人さんの言葉を、私は瞬時に理解できなかった。
「どういうこと?」
「んー、そうね。例えばほら、定期テストの日。一夜漬けのときより、前々から準備をして勉強していたときの方が、案外緊張したりしない?」
「あー、あるある。まぁ俺は基本、一夜漬けだけど」
颯司くんの相槌を聞いて、私もたしかに思い当たることがあった。
ほとんど勉強をしていないままテストを迎えて不安になるのは当たり前だ。
けれど前々から準備していたとしても、自分の弱点を知っているから、きちんと解けるか心配になる。
努力した分、結果を出せるかどうかも気になるから、余計に緊張したりもするだろう。
「そうなの……?」
「当たり前じゃない。物を生み出すのって、本当に大変なことよね」
まさか、理人さんも私と同じ理由で悩むことがあるなんて。
思いがけない言葉に、私はきょとんとしながら彼を見つめた。
もちろん理人さんが努力を欠かさないことは知っているけれど、どちらかと言えば天才型の彼だから、私のような思いはしないのではないかと思っていたのだ。
「つまり、どういうことだよ」
一方、わけが分からないといったふうな颯司くんに、私は自分の気持ちを確かめながら答えた。
「えっとね、私、怖くなっちゃったんだ」
ポプリを売ることができなかったわけ。
それは、自分の臆病な心のせいだった。
トロイメライには用途に合わせた生花を求めて来店されるお客様が多いから、たしかに雑貨の商品は売れ筋ではない。
そのため、購入されたお花を包んだりアレンジを施しているあいだに、雑貨をおすすめして買っていただくことが多いのだ。
他の商品も見ていかれませんか、と言って。
いつもなら当たり前に出てくるそんな言葉が、けれども今日の私には言えなかった。
雑貨コーナーでの目玉は、やはり新商品だ。
つまり、私の考えたポプリである。
陳列したときは誰かの手に取られる瞬間を心待ちにしていたそんなポプリ。
しかしいざお客様を目の前にした私は、急に恐ろしくなってしまったのだ。
本当に気に入ってもらえるのかな、とか。
もしかしたらトロイメライに置くには相応しくなかったかもしれない、とか、そんなことを考えて。
「そう思ったら、堂々と勧められなかったの」
何度も構想を重ね、理人さんに協力してもらい、やっとできた商品だ。
少しでも、お花の魅力を広めたい。
そんな気持ちをたくさん込めて考えたのに、自分の弱さのせいで伝えられなかったことが、私は心底悔しかった。
「なるほど、そういうことか」
「うん。でも本当に、理人さんも怖いと思うことがあるの?」
「ええ、勿論。お客様に気に入ってもらえるか、いつでもドキドキハラハラしてるわよ?」
理人さんは私を慰めるために嘘なんか吐かない。
だからきっと、それは本当のことなのだろう。
理人さんには確固たる実力があり、いつだって堂々とにこやかにしているから、俄かには信じられないことだけれど。
「そんなときはね、こう考えるの。自分が心配になるのは、それだけ準備を重ねたからなんだって」
続けてアドバイスをくれた理人さんの言葉を、私は瞬時に理解できなかった。
「どういうこと?」
「んー、そうね。例えばほら、定期テストの日。一夜漬けのときより、前々から準備をして勉強していたときの方が、案外緊張したりしない?」
「あー、あるある。まぁ俺は基本、一夜漬けだけど」
颯司くんの相槌を聞いて、私もたしかに思い当たることがあった。
ほとんど勉強をしていないままテストを迎えて不安になるのは当たり前だ。
けれど前々から準備していたとしても、自分の弱点を知っているから、きちんと解けるか心配になる。
努力した分、結果を出せるかどうかも気になるから、余計に緊張したりもするだろう。