「これはポプリって言う商品なの。乾燥させたお花やハーブに香りづけしたものなんだよ。ルームフレグランスだけじゃなくて、インテリアにもなるんだ」

「へぇ。じゃあその丸っこいのも花なんだ」

「うん。千日紅っていうの。正確に言えば花は白くて小さいやつなんだけど、苞が色鮮やかでかわいいでしょう?」

ポプリのメインにと私が選んだのは、千日紅という花だった。
名前の通り花期が長く、苞は乾燥してもあまり色が褪せないので、ドライフラワーに向いているのだ。

「どんな人に買ってもらえるのかな。大切にしてもらえるといいなぁ」

「そうだな」

このポプリがお客様の手に取られる瞬間を想像する。

私も理人さんのように、お客様を夢見心地にさせてみたい。
これがそんな目標の第一歩になるのだ。

まだ見ぬ瞬間に想いを馳せながら、私はいそいそとガラスポットを陳列棚に並べた。

「あっ、ねぇ颯司くん。今日の理人さんの誕生日パーティー、颯司くんも来ない?」

「うまいもんが食べられるなら行く」

「じゃあ20時にまたトロイメライまで来てね」

「りょーかい」

待ちに待った理人さんの誕生日パーティーは、急遽颯司くんも参加してくれることになった。
きっといつも以上に楽しくなることだろう期待しつつ、ポプリの件もあり、私はその日とても張り切って働いていたのだが。

「朝は元気にしてたのに、どうしたんだよ、雨音は」

「うう……」

トロイメライも閉店した、その夜。
パーティーの準備を終え、注文しておいたお寿司を暖花さんが受け取りに行っているあいだ、私はずっとリビングのテーブルに突っ伏していた。
まるで今朝の理人さんのような浮かない顔をしているのが、自分でも分かる。

「ポプリっていうやつが一個も売れなかったせいか?」

そんな私の後ろ頭を指でつんつんと突きながら、いつも飾らない颯司くんは、ぐさりと言葉のナイフで私を刺した。

卒業や入学などの行事があるため、春は花屋も需要が高まり、それなりに忙しくなる。
そのため今日もたくさんのお客様がご来店されたのだが、颯司くんの言うとおり、私のポプリはひとつも売れなかったのだ。

「暖花が言ってたけど、雑貨は売れ筋じゃないんだろ? それに今日入荷したばっかなんだから、あんまり落ち込むなよ」

「それはそうなんだけどね……」

実は私は、ポプリが売れなかったこと自体が悲しいわけではないのだ。
私が思い悩んでいるのは、ポプリを売ることができなかった、その“原因”。

「ちょーっと。人の誕生日になんて顔しちゃってんのよ」

するとそこに、トロイメライでの締め作業を終えたらしい理人さんが、キルシェと共にリビングへ現れた。
すでにいつもの笑顔を取り戻していた彼は、そのまま私の正面へと座る。

「あっ、ごめんね、理人さん……」

「ふふ、なーんて冗談よ。そんな顔しないでちょうだい、雨音」

せっかくの日に辛気臭い顔をしているなんて失礼だ。
そう思うが、私はどうしても笑うことができなかった。
それに気づいた理人さんが、眉を下げて悲しげに微笑む。