「そんな……。二人とも綺麗だし、それにまだまだ若いじゃない」
だいたい年齢なんて気にする必要がないくらいの美人姉弟なのに。
本心でそう口にしたものの、それを聞いた理人さんは、なぜか私の両頬を引っ張るように摘まんだ。
「いひゃ! ちょっと理人さん、いひゃいよ!」
「“若い”なんて女子高生に言われると、余計にイライラが増すわね、姉さん」
「ふふっ、本当、そうね」
どうやら私の言葉は、彼らの心の炎へと油を注いでしまったらしい。
どうにか逃れようとばたばたと暴れるものの、理人さんの指は離れることなく、ただ私の頬がさらに伸びてしまうだけだった。
ブサイクに伸びた私の顔を見て、二人が噴き出す。
そんな彼らに、理不尽だと憤っていると。
「……あんたらの賑やかな声、外まで聞こえてるけど?」
早朝にもかかわらず、ふいにお店のドアベルが鳴った。
その音と共に響いたのは、のんびりとした男の子の声。
「颯司くん……!」
「おはよ、雨音。すごい顔だな」
店先に作業着で現れたのは、トロイメライの近所に住む、颯司くんという男の子だった。
私と同い年で同級生でもある彼は、実家の運送会社のお手伝いをしており、ほとんど毎日、入荷した商品を運んでくれている。
「どうしたのよ。いつもより早いわね」
「今日は物が多かったから。雨音の新作、置くんだろ?」
「あら。発注してた“アレ”ね」
「うん。ああ、理人、今日が誕生日なんだっけ? おめでとう、おっさん」
「おっさんは余計よ、クソガキ」
理人さんの注意が颯司くんに向き、やっと解放された私は、ひりひりとした頬を押さえながら、運び込まれた段ボールを開けた。
中に詰め込まれていたのは透明なガラスポットで出来た雑貨で、今日から店頭に並ぶトロイメライの新商品だ。
トロイメライでは花卉や鉢植えだけではなく、こうした雑貨も販売している。
それら雑貨のほとんどが、当たり前だけれど、理人さんのデザインで作られたものだ。
けれどこれは、初めて私も企画から参加させてもらった、思い入れの強い商品なのだ。
「うわあああ、かわいい……!」
そんな真新しい商品をひとつ手に取り、私はうっとりと眺めた。
赤にピンクに白に紫。
透明なガラスポットの中はカラフルに彩られていて、見ているだけで幸せな心地になれる。
「相変わらず花バカだな、雨音は」
そんな私の様子を見て、颯司くんは呆れたように呟いた。
たしかに、花のこととなると途端に周りが見えなくなるくらい夢中になってしまうのは、私の悪い癖だけれど。
「ちょっと、颯司くん。バカはひどいでしょう?」
「じゃあ、花オタク?」
「それもちょっと微妙……」
「まぁ、そんなことは置いておいてさ。それは結局なんなわけ? 中に入ってる花、綺麗だけど枯れてないか?」
そう言いながら、颯司くんが不思議そうな目でポットの中を覗く。
彼の言うとおり、このガラスポットの中に入っている花は生花ではない。
かと言って、まさか枯れているわけでもないけれど。
だいたい年齢なんて気にする必要がないくらいの美人姉弟なのに。
本心でそう口にしたものの、それを聞いた理人さんは、なぜか私の両頬を引っ張るように摘まんだ。
「いひゃ! ちょっと理人さん、いひゃいよ!」
「“若い”なんて女子高生に言われると、余計にイライラが増すわね、姉さん」
「ふふっ、本当、そうね」
どうやら私の言葉は、彼らの心の炎へと油を注いでしまったらしい。
どうにか逃れようとばたばたと暴れるものの、理人さんの指は離れることなく、ただ私の頬がさらに伸びてしまうだけだった。
ブサイクに伸びた私の顔を見て、二人が噴き出す。
そんな彼らに、理不尽だと憤っていると。
「……あんたらの賑やかな声、外まで聞こえてるけど?」
早朝にもかかわらず、ふいにお店のドアベルが鳴った。
その音と共に響いたのは、のんびりとした男の子の声。
「颯司くん……!」
「おはよ、雨音。すごい顔だな」
店先に作業着で現れたのは、トロイメライの近所に住む、颯司くんという男の子だった。
私と同い年で同級生でもある彼は、実家の運送会社のお手伝いをしており、ほとんど毎日、入荷した商品を運んでくれている。
「どうしたのよ。いつもより早いわね」
「今日は物が多かったから。雨音の新作、置くんだろ?」
「あら。発注してた“アレ”ね」
「うん。ああ、理人、今日が誕生日なんだっけ? おめでとう、おっさん」
「おっさんは余計よ、クソガキ」
理人さんの注意が颯司くんに向き、やっと解放された私は、ひりひりとした頬を押さえながら、運び込まれた段ボールを開けた。
中に詰め込まれていたのは透明なガラスポットで出来た雑貨で、今日から店頭に並ぶトロイメライの新商品だ。
トロイメライでは花卉や鉢植えだけではなく、こうした雑貨も販売している。
それら雑貨のほとんどが、当たり前だけれど、理人さんのデザインで作られたものだ。
けれどこれは、初めて私も企画から参加させてもらった、思い入れの強い商品なのだ。
「うわあああ、かわいい……!」
そんな真新しい商品をひとつ手に取り、私はうっとりと眺めた。
赤にピンクに白に紫。
透明なガラスポットの中はカラフルに彩られていて、見ているだけで幸せな心地になれる。
「相変わらず花バカだな、雨音は」
そんな私の様子を見て、颯司くんは呆れたように呟いた。
たしかに、花のこととなると途端に周りが見えなくなるくらい夢中になってしまうのは、私の悪い癖だけれど。
「ちょっと、颯司くん。バカはひどいでしょう?」
「じゃあ、花オタク?」
「それもちょっと微妙……」
「まぁ、そんなことは置いておいてさ。それは結局なんなわけ? 中に入ってる花、綺麗だけど枯れてないか?」
そう言いながら、颯司くんが不思議そうな目でポットの中を覗く。
彼の言うとおり、このガラスポットの中に入っている花は生花ではない。
かと言って、まさか枯れているわけでもないけれど。