理人さんの肩に手を添えて、私は幼い子供に言い聞かせるように呟いた。
びくりと彼の体が震えたのを、手のひらで感じて切なくなる。
意を決して彼の瞳を見つめれば、涙に濡れるその目はゆっくりと見開かれ、それから何かを諦めたかのように伏せられた。

「……気持ち悪いでしょう? 異常なのよ、アタシ」

それは彼からは聞いたことのない、心の芯から冷めてしまったような声だった。
驚きに、ひゅっと喉が鳴ってしまう。

左手で顔を隠しながら項垂れる理人さんは、箍が外れたかのような調子で続けた。

「嫉妬とか罪悪感で、ずっと苦しくて狂いそうなの。自分が嫌で、気持ち悪くて仕方ない。それでももう、どうしたらいいか分からないの……!」

荒い呼吸で、まるで許しを請うような理人さんに、私は返す言葉を見つけられなかった。

彼はずっと、そうやって自分を責めながら、暖花さんを想い続けていたのだろうか。
優しい笑顔の裏で、どれほど傷ついていたのだろう。
そう考えると、息苦しいほどに辛い。

「ごめんなさい、雨音……本当に、アタシ……」

「大丈夫だよ。ねぇ、理人さん。大丈夫だから」

まるで壊れた人形のように、大丈夫という言葉を繰り返す。
彼のためになりたいと思うのに、私の言葉はどれも彼を傷つけてしまいそうで恐ろしかったのだ。
その代わりに、せめてもと頼りない腕で大きな体を抱きしめる。

「私がいるよ。傍にいる」

だからもう、一人で傷ついたりしないで。

暗い暗い、夜の淵。
まるで世界に二人きりかのような静かな時間を、私たちはひたすらに過ごしていた。


あの日からもう5年が経つ。
理人さんはついに想いを伝えることなく、暖花さんはもうすぐ、結婚式を迎える。