「んん……?」

一人寂しく床に就いていた私が目を覚ましたのは、なぜか真夜中のことだった。
玄関の鍵が開き、誰かが帰ってきた音が聞こえたのだ。
驚いて時計を確認すれば、時刻は日付けも変わった夜の2時すぎ。
きっと二人のどちらかが帰ってきたのだろうと、自室を飛び出し、一階に駆け下りる。

「あまねぇ、ただいまぁ」

「夜分遅くに申し訳ありません」

玄関にいたのは、赤い顔で上機嫌な理人さんと、理人さんの仕事仲間である男性だった。
理人さんは男性に肩を担がれ、足元がおぼつかない様子だ。
辺りにふわりと漂っているのは、アルコールの匂いだろう。

「お帰りなさい。……お酒、飲んでたの?」

「ふふっ、大人にはねぇ、飲まなきゃいけないときがあるのよぉ」

私の肩に顎を乗せて抱きついた理人さんは、言葉は辛うじて通じるものの、どこかがおかしかった。

それもそのはず。
理人さんはドイツ人とのハーフなのだが、なぜかお酒にとてつもなく弱いのだ。
ビール一杯で酔いが回ってしまうからと、家ではもちろん、外でも滅多に飲んだりしない。

普段は見せない理人さんの様子に戸惑っていると、隣にいた男性も「珍しく打ち上げに参加したと思ったら、ずっとこの調子で」と、困ったように呟いた。
彼から見ても、どうやら今日の理人さんはおかしいらしい。

「では、私はこれで」

「わざわざありがとうございました」

「じゃーねー」

それから二三、言葉を交わしたあと、男性はタクシーに乗り込んで帰っていってしまった。
その姿を見送り、取り残されたように玄関に立ち尽くす。
お酒の匂いをまとった理人さんは、私にまとわりついて離れてくれない。
こんな彼の姿を見るのは初めてだ。

「連絡もないから心配したんだよ?」

「ごめんねぇ。途中でバッテリーが切れちゃって」

「しっかりしてよ、理人さん」

本当にどうしてしまったのだろう。
それに私も、どうしてこんなに不安が募るのかと、その場でじっと考え込んでいると。

「………わるい」

上機嫌だった理人さんが、いつの間にか顔色を青くして口元を押さえていた。
そのまま、くぐもった声で何かを呟いている。

「理人さん? どうしたの?」

「わるい……」

「悪い?」

「きもち、悪い……」

「ええっ!?」

彼の様子を窺いながら、私は大変なことを思い出していた。
そう言えば、理人さんはお酒を飲むと――必ず吐き戻してしまうのだ。

「りっ、理人さん、トイレ! あっ、水! お水持ってくるから!」

「うぅ……」

理人さんとは違う意味で、私までもが青ざめる。

……まずい。
このままでは、もう色々と、完全にアウトだ。