「今日まだ来てないんです」
休みの日にかかってきた電話は職場の上野さんからだった。12時過ぎ、その日出勤予定の月はまだ来ておらず連絡もないという。
「わかりました。僕から連絡してみます」
供は電話を切ると、月の番号へ電話をかけた。ツーツーツー。話し中?
月の電話は繋がることなく一定のツー音を繰り返している。遠い宇宙にかけているみたいな、電話が繋がらないだけでやけに不安になる。前にも同じことがあったな。供は苦い思い出に唇を噛んだ。名前が月のせいかな、まるでかぐや姫だ。供は寝起きの身体を起すと、顔を洗い歯を磨き身なりを整えた。すぐにでも月のところに行きたいけれど、店をほっとくわけには行かない。供は急いで店へ向かった。その日は上野さんと供、夕方から来る高校生の子で店を回すことになった。営業時間が終わると早々に月の住むアパートに向かった。前にも一度来たことがあるそこは年季の入った昔ながらの建物だが、部屋の中はときおり手入れがされているようで綺麗に整っている。供はインターホンを押した。ピンポーンという高い音が部屋の中で確かにしている。寝ていても気づくとは思うが、月が出てくる様子はなかった。
「またか」
供は苦々しく呟いた。
「どうして君も月乃も…」
供は昨日の話を思い出す。月乃はお母さん、月はそう言っていたが、年齢的に見てそれには無理があった。いや、完全に無理とは言えないかもしれない。しかしそれはあまりに…。そういえば、二人は本当によく似ていた。あのグレーがかった髪は日の光にあたると白っぽく輝いて見えた。まるで夜空に浮かぶ月が白く見えるみたいに。もし、あの二人が同一人物だとしたら?だとしたら彼女はどうしてそんならことを…。供はもう一度彼女に会いたいと思った。そして聞きたかった。
「君は誰なんだ?」と。