職場の人に知られないようにするのは苦心の技だ。会うところを職場から離したりプライベートな話を避けることはできても、ふと表情がそれと言ってしまう。それを気を付けるあまり月は怒ったように話すこともしばしばあり、上野さんからは、
「店長と合わないのね」
と言われていた。月はあいまいに笑ってごまかした。

月が休みの日、待ち合わせた駅で仕事終わりの供がスーツ姿でやってくる。
「なんか今日しっかりめだね」
「本社でミーティングがらあったからさ」
そういえば、そんなこと言ってたっけ。8時過ぎ二人が向かったのは近所の映画だ。ロング上映中の海外ホラー映画を見に行くのである。月はこの原作者の作品が好きでもうひとりで二度見に行っているが、彼と行くのははじめてだ。
「あー楽しみっ」
月が呟くと、
「3回目なのに?」
と彼が笑った。
映画は期待通りであった。ストーリーを知っている分、月はあまり怖がらずその成り行きを楽しめた。意外だったのは供の方で、
「あんまり怖くなかったな」
と拍子抜けしたようである。
「怖くなかった?」
「怖いっていうより、ビックリって感じ」
「あージェットコースターみたいな感じか」
「それはちょっと違うよ」
その違いがやはり月にはらわからなかったが、話の流れで今度日本一怖いと評判のジェットコースターに乗りに行こうとなり月は目を輝かせた。
「ジェットコースターか、楽しみだな」
「もしかしてはじめて?」
月はこくんと頷いた。
「月ってさ知らないこと多いよな」
何気なくそう言う供に月はニイッと笑いかけた。
「それはどうかな?ククククク…」

夜空にポカリと浮かんだ三日月が綺麗な道を手を繋いで歩く。月がテクテク歩くと供がテクと進む。
「月の月は三日月の月だよ」
月が言った。5メートル先の男女がちらりと月を振り返った。
月が立ち止まると供も歩くのをやめ月の顔を覗き込む。
「どしたの急に?」
「おばあちゃんが多月っていうんだ」
「へぇ、おばあちゃんも月なんだね」
「うん。それでね、」
月は供の目を見つめニイッと微笑むと、
「お母さんは月乃っていうの」
供は表情を作りきれず真顔で月を見つめた。パチ、パチ、と目を瞬くと、
「どうしたの本当に?」
と困った顔で月を見た。
「もしそうだったらどうする?月乃が、ねぇ、もし…」
もしお母さんだったらあなたは会いたいと思う?じゃあもしそれも私だとしたらあなたは騙されたって怒るかな。
ねぇ、どんな結末だったらあなたは本当の私を受け入れてくれるだろう。
月は昔のはじめて好きになった人を思った。ずっと心に残って居続ける。私はどうがんばっても人との未来は生きられない。存在が違いすぎるから、だから彼とはあそこで別れてよかったのだ。そう言い聞かせてきたけれど、もしなにか私の知らない可能性がどこかにあるならいつか、それを見つけられるだろうか。
「月、大丈夫?」
黙りこんだ月を心配そうに供が見つめた。月はにこりと微笑むと供の背中に両手を回しギュウ、と強く抱きしめた。