それからしばらく、二人で通学して二人で帰るのだけは変わらなかったが、前のように話すことは少なくなった。

 蜜柑の収穫時期が終わって、優子の造り酒屋で蜜柑のリキュールの仕込みが始まった夕方、翔馬はいつもの帰り道で、

「…あのな、優子」

 初めて下の名前で呼ばれたので驚いたが、

「お前に、言うとかんといけんことがあって」

「何?」

「…目を閉じて」

 言われるがまま優子は目を閉じた。

 次の瞬間、何かが触れた。

 ビックリして目を開けると、翔馬の唇が優子の唇に触れている。

 翔馬はスッと離れた。

「お前のこと、ずっと好きやった」

「…急に言われても困る」

 無理もない。

 しかも、いきなりファーストキスまで奪われたのだから、冷静でいろということに無茶がある。