このイニングは最終的に一点どまりであったが、

「とりあえず、これでノーヒットノーランだけは避けられた」

 円陣の真ん中にいたキャプテンがいうと、清正以外の選手はどっとウケた。

 清正は早々とマウンドに上がって、投球練習を始めた。

 府大会の準々決勝で清正は、ボール球ながら145kmを出している。

「あれはまぐれやで」

 などと言うのだが、腕を鞭のようにしならせ、膝を畳み込んだフォームから、オーバースローで投げ込んでくる。

 清正は初球はストレートと決めていた。

 しかしキャッチャー芦野は、

「今日は、スライダーから行こう」

 マウンドに来ると、清正に言った。

 相手の様子から、清正のストレートに勝負を張っているように見えたのである。

 清正はこういうときは恐ろしく素直で、

「分かった、スライダーを中心に組み立てよう」

 初球はスライダーから入った。

 すっぽぬけのスライダーがホームへ流れてゆく。

 打たれた。