帰りに病院に寄って、その日の出来事を話すのが桜子の日課となっていたが、この日は「大して話すことはなかったよ」とまりなを気遣ったのか、里菜の話題は出さなかった。

 何日かして、桜子から退院の手伝いを頼まれ、まりなの病室に里菜が来たことがあった。

「アイドル部の部長さんだから忙しいのに、なんかごめんなさいね」

「大丈夫ですよ、いつも桜子にはノート借りたりして助けてもらってますから」

 リハーサルや打ち合わせで授業に出られない日に、里菜は桜子のノートを借りて、授業に追いつこうとしている。

「元気になったら、まりなさんと桜子で国立のライブに呼びますから」

 里菜は言った。

 実は里菜には母親がいない。

「私が幼稚園のときに脳の病気で他界してて、だから親が大変な状態の子供がどんなことかってのを、私は分かるんです」

 仲良くなってから桜子の事情を知った里菜は、それで部室に呼んだり、それとなく気にしていたらしい。