そのようにしてすみれは札幌へ進学したのだが、入学して間もない連休中、廣健が信号待ちの自転車ごと、路肩まで突っ込んで来た酔っ払い運転の車にはねられて亡くなったことを人づてに聞いた。
「それで、すみれちゃんにこれをって」
連休前の亡くなる直前、旭川で見つけて買ってあった物らしい。
「…ん?」
開けると小さなネームプレートに、
「HIROTAKE&SUMIRE」
と刻印がしてある。
一枚は一緒に荼毘にふされ、残る一枚は形見としてすみれに…と蠣崎家からすみれへ渡されたのである。
人前ですみれは我慢した。
しかし。
部屋に戻るとすみれはベッドに顔を押し付け、声を放って哭いた。
すみれはこれをペンダントにし、入浴のときだけは外したが、それ以外は肌身から離すことなく、メジャーデビュー以降もつけていたらしい。
外すようになったのは東京進出以降で、すみれは後に銀行の貸金庫に預けた。
現在、すみれの初恋は、銀行の地下金庫に眠っている。