そのような騒ぎがおさまった頃、

「橘、ちょっといいか?」

 廣健に呼び出されたすみれは、意外な言葉を聞いた。

「うちのクラスに、大内っているだろ?」

 すみれは顔が歪んだ。

 握り飯を潰したような顔と、金持ちの子息らしい鼻持ちのならなさ加減から、

 ──毒まんじゅう。

 と陰で呼ばれていた同窓生である。

「毒まんじゅうがどうかしたの?」

「あいつさ、すみれのことが好きらしいんだよ…」

 よりによって、どうしたことかとすみれは泣きそうな顔をした。

「それで、俺に仲を取り持ってくれって言うんだけど…でも俺、実は橘のことが好きでさ」

 ずいぶんサラリと言ってのけた。

「だから渡したくなくてさ、それで」

 悪いが廣健のことを好きなふりをしてくれないか──というのである。