そんな平和な日々であったところに、長谷川マネージャーがすみれの母親と一緒に中学へとやって来たのだから、当たり前だが中学は灰神楽の立ったような騒ぎとなり、

「橘すみれを是非モデルデビューさせたい」

 というので、学校始まって以来のことだけに、どうしたら良いものか、(こう)じ果てたようであった。

 東京あたりの中学ではこうしたことは物慣れた者が必ず一人二人ばかりあって、

「とりあえず受験を終わらせてから考えましょう」

 というような話で済むのだが、そうした縦横家(じゅうおうか)のような者がなかった。

 そのため、

「これは罠に違いない」

 新手の詐欺である──と見て通報したものがあって、長谷川マネージャーは、警察署まで連れて行かれた。

 結局のところ当たり前ながら無罪で、放免はされたものの、

「橘すみれのスカウティングはかなり難しい」

 と言われてもいたらしい。