造り酒屋は蜜柑畑を縫うように走る坂の果ての、小高い丘の上にあった。
朝になると広縁に朝日が目一杯射し込んで、午後は陽が山の陰となって、海風で夏場は特に涼しくなる。
「優子、宿題終わらせてから遊びに行きんさい」
「はーい」
二階の屋根裏部屋は特に涼しかったので、郷原優子は早々と宿題を済ませると、自転車を駆って蜜柑畑の坂道を下り、集落に一つしかなかった小中学校のグラウンドを目指した。
「造り酒屋の優ちゃん」
といえばよく自転車を乗り回し、グラウンドで走り回ったりする活発な女の子として集落では知られている。
「フリフリでヒラヒラな恰好ばしよるけん、余計目立っとった」
呉の駅前にある手芸用品の店でレースを買って、和裁の得意であった祖母から習った裁縫で、ワンピースやブラウスの襟や袖口に片っ端からレースをつけて、遊びに行くのも日常茶飯事であった。