清水照道に連れまわされた次の日、要するに今朝、私は寝坊をした。
私の起きた時間は本当に遅刻ぎりぎり制服に着替えたり、お母さんからお弁当を受け取る間も走っていたし、お父さんとトイレのタイミングがバッティングしたりして、大変だった。
教室に到着すると、清水照道と河野由夏率いるクソキラ軍団は黒板の教卓のところに集まり、楽しそうに流行りの動画の転校生話をしていて、私に気づいた清水照道による「おはよ、今日もかわいい!」とふざけた発言はあったものの、以降、特に……言葉についてからかわれることはなかった。
清水照道は、もしかしたら昨日の私について、気に留めていなかったのかもしれない。
「本当今日眠い、っていうかチダリコ白目剥いてなかった?」
「いや剥いてないし!」
だから今、一時間目を前にして、机に伏せながら河野由夏らの会話を盗み聞いているけど、今なお私の話の仕方や、どもりについて話題にする素振りはない。昨日清水照道とを追いかけていた際、千田莉子が笑いすぎて飲み物を噴出した話や、駅前のハンバーガーショップで誰かがバイトを始めたから食べに行く話、寺田の姉が怖いという話や、寺田の住んでいる地区と清水照道の前に住んでいた家が近かったことの話をしているだけだ。
特に寺田の住んでいる地区は、話を聞いてる分で判断すると私が高校入学前にカウンセリングに向かうため使用していたバスロータリーがある場所みたいだ。もう二度と行けないし行きたくない。
そうしてウェイの奴らはどうでもよさそうな話ばかりしている。時折私とどこに行ったか清水照道は質問を受けているが、「ゲーセン」や「カフェ」など虚偽の報告を繰り返し、どんな様子であったかも話しているが「超かわいかった」「後もう少しで手を繋げそうだった」など幻覚を訴えていた。
昨日も、どもっていたことに気づいていなかったのだろう。
でも、もし気付いていたら、きっとあんなウェイでパリピの、リア充みたいな人間は秒で馬鹿にしてくるはずだ。私に対する受け答えを真似して、げらげらと下品に笑うはず。今までそうだったし、あいつだけ違う反応を示すことなんてありえない。現に今だって「樋口さんと行くのにおすすめの場所ない?」と半笑いで周囲に訪ねて、河野由夏らは馬鹿にした表情で清水照道を笑っている。
話の矛先が、こちらに向かう前に逃げよう。トイレにでも行こう。
顔をあげて、椅子の音を出さないように立ち上がり、教室を出ていく。
キラキラクソグループたちは清水照道と私の話題から流行りの写真が綺麗に撮れる場所へと変わっていて、私が動いていることに気付く様子はなかった。
トイレの流し場で手を洗い、ハンカチで手を拭く。私の後ろに立つクソ共に頭を下げつつ、トイレから出ていこうとすると、私の後ろで会話を続けていた女子たちは鏡の前で髪をこね回すことを再開した。
その様子をちらりと盗み見て、自分のことを話題にしていないか確認してからトイレを後にする。
時間はまだ次の授業まで余裕がある。どこで時間を潰そうか考えながら歩いていると、ふいに生徒が校門のほうから校舎へと歩くのが見えた。
確かあの人は、二年の先輩で保健室で勉強をしていた人だ。何の気なしに見つめていると、その先輩は校舎を横切るようにして職員専用の昇降口へと入っていった。
もしかして、あの先輩は保健室に登校しているのだろうか。
そう考えると、僅かに昔の記憶が蘇りはじめた。私は廊下の端から視線を逸らし、教室から逸れるように歩いていく。図書室にでも行ければいいけれど、一度行ったとき二年生や三年生のギャルとかヤンキーみたいな集団がたむろしていた。だから行けない。
ため息を吐きながら廊下の隅をなぞるように歩く。すると、廊下の角、行き止まりの廊下に差し掛かったところで聞こえてきた声に、足が止まった。
「昨日はありがとね。話聞いてもらっちゃって」
「べつにぃ〜。だって由夏しぃの頼みじゃん?」
河野由夏の声と、そして、清水照道の声だ。
私の起きた時間は本当に遅刻ぎりぎり制服に着替えたり、お母さんからお弁当を受け取る間も走っていたし、お父さんとトイレのタイミングがバッティングしたりして、大変だった。
教室に到着すると、清水照道と河野由夏率いるクソキラ軍団は黒板の教卓のところに集まり、楽しそうに流行りの動画の転校生話をしていて、私に気づいた清水照道による「おはよ、今日もかわいい!」とふざけた発言はあったものの、以降、特に……言葉についてからかわれることはなかった。
清水照道は、もしかしたら昨日の私について、気に留めていなかったのかもしれない。
「本当今日眠い、っていうかチダリコ白目剥いてなかった?」
「いや剥いてないし!」
だから今、一時間目を前にして、机に伏せながら河野由夏らの会話を盗み聞いているけど、今なお私の話の仕方や、どもりについて話題にする素振りはない。昨日清水照道とを追いかけていた際、千田莉子が笑いすぎて飲み物を噴出した話や、駅前のハンバーガーショップで誰かがバイトを始めたから食べに行く話、寺田の姉が怖いという話や、寺田の住んでいる地区と清水照道の前に住んでいた家が近かったことの話をしているだけだ。
特に寺田の住んでいる地区は、話を聞いてる分で判断すると私が高校入学前にカウンセリングに向かうため使用していたバスロータリーがある場所みたいだ。もう二度と行けないし行きたくない。
そうしてウェイの奴らはどうでもよさそうな話ばかりしている。時折私とどこに行ったか清水照道は質問を受けているが、「ゲーセン」や「カフェ」など虚偽の報告を繰り返し、どんな様子であったかも話しているが「超かわいかった」「後もう少しで手を繋げそうだった」など幻覚を訴えていた。
昨日も、どもっていたことに気づいていなかったのだろう。
でも、もし気付いていたら、きっとあんなウェイでパリピの、リア充みたいな人間は秒で馬鹿にしてくるはずだ。私に対する受け答えを真似して、げらげらと下品に笑うはず。今までそうだったし、あいつだけ違う反応を示すことなんてありえない。現に今だって「樋口さんと行くのにおすすめの場所ない?」と半笑いで周囲に訪ねて、河野由夏らは馬鹿にした表情で清水照道を笑っている。
話の矛先が、こちらに向かう前に逃げよう。トイレにでも行こう。
顔をあげて、椅子の音を出さないように立ち上がり、教室を出ていく。
キラキラクソグループたちは清水照道と私の話題から流行りの写真が綺麗に撮れる場所へと変わっていて、私が動いていることに気付く様子はなかった。
トイレの流し場で手を洗い、ハンカチで手を拭く。私の後ろに立つクソ共に頭を下げつつ、トイレから出ていこうとすると、私の後ろで会話を続けていた女子たちは鏡の前で髪をこね回すことを再開した。
その様子をちらりと盗み見て、自分のことを話題にしていないか確認してからトイレを後にする。
時間はまだ次の授業まで余裕がある。どこで時間を潰そうか考えながら歩いていると、ふいに生徒が校門のほうから校舎へと歩くのが見えた。
確かあの人は、二年の先輩で保健室で勉強をしていた人だ。何の気なしに見つめていると、その先輩は校舎を横切るようにして職員専用の昇降口へと入っていった。
もしかして、あの先輩は保健室に登校しているのだろうか。
そう考えると、僅かに昔の記憶が蘇りはじめた。私は廊下の端から視線を逸らし、教室から逸れるように歩いていく。図書室にでも行ければいいけれど、一度行ったとき二年生や三年生のギャルとかヤンキーみたいな集団がたむろしていた。だから行けない。
ため息を吐きながら廊下の隅をなぞるように歩く。すると、廊下の角、行き止まりの廊下に差し掛かったところで聞こえてきた声に、足が止まった。
「昨日はありがとね。話聞いてもらっちゃって」
「べつにぃ〜。だって由夏しぃの頼みじゃん?」
河野由夏の声と、そして、清水照道の声だ。