その点で「何でも出来ることをしよう」と決めていたのは、
「今どきボーカルだけじゃ、ねぇ…」
と不安を抱えていた、ボーカルのるなであった。
中学のガールズバンド時代から、明るめの長い茶髪をカールさせた、いわゆるギャル系のファッションに身を包み、正統派のひまりとは対極に位置する。
しかし誤解されがちな見た目に反し、性格は至って普通で、逆に古風な面すらある。
「そんなことないって、るなが頑張ってるのは俺知ってるから」
優子の場合はリスナーであったが、るなの場合励ましてくれたのは、リラ祭のときに話していた花山駿平である。
「ありがと」
一歳違いで、るなのほうが年下にあたる。
「いつも駿平は優しいよね」
保育園の頃から一緒で、るなに何かあるとすぐ駆け付け、ときにはかばって駿平が怪我をする日もあった。
その駿平は、新潟の全寮制の共学の高校にいる。
「俺が必ずるなを、国立競技場に連れてゆく」
普段は互いにLINEでメッセージを交換したりしているが、たまにフェリーで帰ってくると、るなは駿平と会って互いの近況を話し合ったりしていた。
駿平の存在は同じ小学校でもあった香織やさくらも知っていて、
「二人、お似合いだよね」
などと、香織はさくらと語らうことがある。