それまでの薫は少し取っ付きづらい面があって、
「ダンスは上手いんだけど、協調性がね…」
と言われることもあった。
ダンス練習をやり過ぎて足を痛めてしまうほどストイックで、それで誰かを非難することはないが、見る側からすれば、
──怠けるなよ。
という無言の圧力めいたものは感じるであろう。
薫自身もそこは分かっていたのか、それで誰かと組むということを出来ず、リラ祭の演目を出せなかったらしい。
ところが。
ケガで薫が離脱をしたあと、ちょっとした変化があった。
「薫、洗い替えのポロシャツある?」
だりあにせがまれたので一枚だけ貸した。
次の日、薫がふとレッスン風景を見ると、そのポロシャツが額装され、練習場の最も目立つ位置に掲げてあったのである。
「大丈夫、ちゃんと忘れてないよ」
だりあなりの優しさであったのかも分からない。
薫は泣きそうになったが、
「薫ちゃん、ちょっと手伝ってもらっていいかな?」
茉莉江の声がしたので、涙を拭って踵を返した。