夜、合宿中の楽しみの一つに花火があった。

「夜中まで騒がないように」

 美波に釘を刺されるのだが、小樽の駅前の量販店で買い込んだ花火をメンバー全員で楽しみながら、夏らしい夜を過ごす。

「私あんまり花火したことないんだよね…」

 というだりあのために、薫がレクチャーをし始めた。

「長崎ってなぜかお墓参りで花火するんだけど、私は子供の頃ロケット花火が怖かったから、親が手持ち花火にしてくれて」

 それでいやに手慣れているのである。

「それよりさ、何で墓で花火するんだろね」

「それは分からないけど、昔から長崎は坂と墓はあちこちあるし、精霊流しなんかもあるから、にぎやかに過ごすのが当たり前だったんだよね」

 むしろ薫は七夕の蠟燭集めのほうが不思議であったらしく、

「七夕にハロウィンみたいに、ロウソク一本ちょうだいなって言って、お菓子もらいにゆくじゃない? あれのほうが私は不思議」

「あれは普通にやるよね」

 道内組のほとんどがうなずいた。

「いろんな分からないことが分かるから、越境入学も悪くないよね」

 みな穂は線香花火に火をつけた。

「私、地味だけど線香花火のほうが好きだな」

 みな穂の線香花火は、柔らかい高島岬の海風に揺れて、かすかにそよぎながら静やかな音を立てていた。